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第八章 ものづくり開発事例    

8.1 蜂の巣を工場で作る     8.2 畑違いの用途    8.3 アルミハニカム   8.4 再び塩ビハニカム
8.5 汚水処理装置  8.6 ロールコア  8.7 再びアルミハニカム   8.8 フィルター   
8.9 サンドイッチ構造  8.10 我が立つところ深く掘らば・・・    コーヒータイム(9)上杉鷹山  
執筆後記(第八章)

8.6 ロールコア

8.6.1 ファスナーからの発想

  林業指導所でロールコアを開発する前(昭和30年頃)にハニカムの試作も行っていた。しかし積層枚数が少ない状態で展張を行おうとしたためにうまくいかず、開発を諦めてしまった。枚数が多いとどうなるかという、もう一歩の突っ込みが足りなかったのである。そして同指導所では欧米を視察した人から米国のマジソン林産研究所のハニカムとロールコアのサンプルを入手する。それを見てなぜかロールコアだけを試作したのがR氏である。ハニカムの試作よりロールコアの方が簡単だからであろう。図8.52 @のように丸棒に新聞紙を巻き付け、膠(にかわ)で固定し、丸棒を抜くと Aのようになる。これに接着剤を塗布し積層すると図8.1 のようなロールコアになる。新聞紙1枚では弱いので、2 枚にするが、それでは紙の間に隙間ができてしまう。試作を繰り返すうちに水に濡らして巻くと隙間が消えたが、相変わらず丸棒を外す前にそれが開かないように膠をぬって接着する。そのため丸棒は横の方向に引き抜くことになる。ロールコアの機械成型手作りはでは可能でもこれを機械化する方法はなかなか思いつかなかった。それは外国も同じである。 @ の状態から A にするには棒を横に抜くことになるが、それではとても機械にならない。ある時膠をぬるのをやめて、丸棒を横ではなく上下方向に外してみた。乾燥した紙は引張れば伸びるけれど、すぐ元にもどる。それに接着剤を塗布して積層することもできた。膠(にかわ)をぬって円を相互に固定する必要は全くなかったのだ。これが後の機械化に重要な要素であることをこのときは気づいていない。手作りを続けているだけでいっこうに機械化の目途が立たない。「機械化できない研究は趣味でしかない」となじられたりする。同所では木工機械の展示会を行い全国から機械技術者を集める。そのとき技術者に働きかけても乗ってくる人はいない。悶々としていたR氏は、あるとき作業服のファスナーを上げ下げしながらヒントを思いついた。ファスナロールコアの成型ーの開閉機構をまねれば良い。早速機械メーカーに相談し、製作してもらったのが図8.53 の方法である。棒を横に抜くのではなく垂直に抜く。原紙に水溶性樹脂を含浸し、ローラーで絞り濡れた状態で平行に並んだ鉄棒(ロッド)にかませ、移動させながら乾燥硬化させる。そして樹脂で硬化した紙の弾力性を利用して、ループを広げて図のように垂直に外す。一旦開いたループはもとに戻る。ロッドの両端をチェーンの特殊なリンクで支持し回転自由な設定にする。これで連続成形が可能になり、その全体の工程は 図8.54 のようになる。このチェーンの機構や位置関係は難しい。現在のように CAD  ソフトがない時代、手書きの図面では思考錯誤が続いたと思われる。その他全体の工程にもノウハウが一杯詰まっているから、特許が切れてもまねする企業はない。それは外国でも同じである。マジソン研究所もロールコアの試作だけに終わったようである。

8.6.2 成型機の改良

(1) 工場の移転

  合併に際しR氏が社長になって10年が経っていた。ロールコアは本州の需要が大きいので東京が主力工場であり、需要の少ない道内は合併前の古い機械を狭い工場で稼働させている。一方で札幌のハニカムの工場は 4 mm セルの塩ビハニカムに 3 mm セルも追加されてそれらは主力製品に育っていた。この年規模拡大のため札幌の両工場は移転して統合することになり、ロールコアの古い機械の更新を筆者に任された。しかしロールコアの設備に関してはR氏の守備範囲であり、それまで当部が関わることは一切なかったのである。遠くから眺めているだけで、口出しは一切無用であった。これは過去のいきさつ上無理のないことである。
当初のロールコアはセルサイズが 8.5 mm、紙幅は 300 mm である。8.5 セルはロッドが細いので曲がりやすく長くできないということであった。しかし300ではあまりに小さくて生産機械というより実験設備であり、付帯設備も時代遅れである。まずこれを倍の 600 mmにすることにした。
「それは絶対無理だ、せいぜい 450 mm にしろ」というのが社長の主張である。450 mm でもいいのだが、この設備ではセルサイズ 14 mm の成形も兼用するのであり、それは紙幅 600 mmで全然問題ないのである。同じ設備で 450 と 600 の紙幅が混在してはその切り替えに問題がありすぎる。どうでも 600 mm にしなければせっかくの新設備が精彩を欠くことになる。しかし長さが倍になれば同じ荷重に対して8倍も曲がりやすくなるのだ。紙の原紙ロールは重く、これを引張り出すにはかなりのテンションになり、簡単にロッドを曲げてしまう。しかしこれはダンサーロールを工夫することで解決できることであり、問題はないはずである。

(2) 既存技術の組合わせ

過熱手段   次は乾燥方法である。これまでは燃焼炉からの熱風を使用していたが、移転に際しボイラーを設置するので「熱源にはできるだけ蒸気を」ということである。しかし蒸気は温度が低いため、ラジエーターを設計してみると成型機に比し全く釣り合いの取れない大きさになった。不格好だ、とにかくデザインが悪い。何か他に方法はと思案しているとき、印刷機械で紙の印刷面を乾燥するのに直火を使用するということを思い出した。そうだ直火でいい、といっても実験する方法がないし、時間的余裕もない。図8.55のように装置を縦型にし中間を広げてそこにプロパンの燃焼器でロッドを加熱するという方法を想定してみた。上部からロッドに送り込まれた濡れた紙は下方から排出され、その間でロッドの温度は低下する。その低下した温度をロッドが戻る途中で直火で加熱される。ここを通過するわずかな時間で低下した温度が回復するかということを確かめなければならない。それで次のような実験を行った。8.5 mm φのロットをプロパンのガスコンロで加熱し、濡れた紙を巻き付け乾燥する時間を腕時計ではかる。わずか数分の実験である。含浸した紙の水分量は分かっているから、原紙速度や全体の熱収支からバーナーの容量も計算できる。この乱暴な結果から得たデータで設計し設備は完成した。試運転は全体的に順調にいき予想通りの結果が得られたが、思わぬ所でトラブルが発生した。14 mm セルはスムーズに成型できるのに、8.5 mm セルはロッドが曲がり成形できない。紙にしわが発生し、それがロッドを曲げる。小さな曲がりはロッドに支障はないが、大きい曲がりはロッドを取り替えることになる。曲がったロッドはなんとしても真直ならないからである。これは決して「社長には見られたくない」状況である。「それみたことか」と一喝されそうである。苦労のすえ原因を発見した。成形器の入り口にあるチェーンを支える二本の軸の間隔が左右でわずか 0.5 mm 違っていたのである。ロールコアの成型機は微妙なところがある。しかし本質はそれだけであり、成型機全体の構成は既存の技術の組合わせでしかない。それでもこの新しい成型機はいかにも近代的で、他ではまねできないようなものに見える。単なる組合わせといってもそこには多少の工夫はあるけれど、それはその気になれば可能なことが多いと思われる。

8.6.3 FRP製ロールコア

(1) 厳しい用途

  電柱には倒壊を防止するためにワイヤーを大地に強く繋ぎ留めているアンカー(錨)がある。これは従来コンクリート板などが用いられたが重いので軽いサンドイッチ構造にしたいとの要望があった。サンドイッチパネルの用途としては極めて厳しいものである。土中に埋めるので耐圧性、耐水性、耐薬品性、耐久性などが要求される。この需要は大きく将来性が見込めるというふれ込みである。まずハニカムを強度アップしてみるが、素材が紙ではどんなに樹脂で補強しても使用条件をクリアーできない。だからといってアルミハニカムでは強度があっても価格や耐久性で問題外である。材料を選ぶとすればFRPが最も適しているであろう。しかしFRPハニカムは輸入品しかなくアルミより高価である。「いっそのことFRPで作ってみるか」。
FRPにするならハニカムよりロールコアの方がはるかに作りやすいことは合併前に実験していた。しかしそのころは用途も考えられず、まして競争相手の形状をそのまままねるのは気が引けた。今は気兼ね無用なので部下にその作り方を教え試作を命じてもなかなか動かない。それで私は自分でサンプルを作った。試験室の隅に隠れて半日かかり、小さな試作品を部下に見せた。「これどこの会社の製品 . . . . 」「どこのでもない、俺が作ったんだ」。それでようやく部下がガラスクロスを基材にした手作りの試作を始めた。PETフィルムの上に薄いガラスクロスを広げそれにポリエステル樹脂をかけさらにPETフィルムをのせ、脱泡すると一枚のシートができる。これをロッドに巻きロールコアの形状にする。加熱硬化後ロッドをはずし、フィルムを剥がす。性能試験の結果はやはり予想通り目的に叶うものであった。そして手作りから試作機に移るのは当然の成り行きである。

(2) 機械の設計

  しかしガラスクロスは高くて使えない。ロービングをカットして散布するのがもっとも安価にする方法である。これらを機械化すると図8.56 のようになり、基本的には従来技術の組合わせである。しかしFRPとしては0.2 mm 程度と極めて薄いもであり、そのための工夫はなされている。

(3) 樹脂の硬化

FRPロールコア成型機  硬化のための熱源は制御しやすくするために電熱とする。樹脂の硬化を早くするためには硬化剤を多くすればよい。しかしそれでは樹脂が長持ちせず、タンク内で硬化が始まる。硬化を遅くすると成型機が長くなる。それなら硬化剤を使用しない方法、例えば紫外線硬化という手段もある。もし成型機に入る直前でそれを照射すれば問題は解決だ。メーカーに相談すると「研究所で色々な試験設備で希望に添う実験が見ることができる、是非見学を」と営業マンがいう。大きな研究所であり、そこを見学したが何も意味がなかった。サンプルをベルトコンベヤーにのせ黒い覆いで囲まれた照射部を通過し出てきたら硬化している。ただそれだけの設備である。照射部分はブラックボックスである。照射時間やその後の硬化の進行速度など、知りたいことが全くわからない。この程度なら自分の所でもやっている。営業マンに目的は告げてあったのに全く無駄であった。紫外線照射は諦めて硬化剤で工夫することにした。まず成形速度を希望の速度に決めると添加する硬化剤の量が決まる。それだとタンクの樹脂も硬化してしまう。放置すれば発熱し発火するようなことにもなる。それを防ぐにはタンクを冷却すればよい。しかしそれではタンク内での硬化は防げるが、今度は粘度が上昇しポンプが働かなくなる。ならば粘度を下げるためには溶剤を添加すればよい。しかし今度は加熱の段階で発泡する。では加熱前に溶剤を蒸発させればよい、などなどである。これらは問題解決のための一つの経過であり、最終的にはもっと別の解決法をとっている。しかし紫外線照射をもっと追求すべきであった。一つの基本的問題から逃避すると次々と生ずる新しい問題を解決しなければならなくなる。

(4) 成型機の出口で

成型機   硬化炉を出るときはまだ温度が高いままである。成型品は硬化していてもその熱で軟化している。その状態でロッドをはずすと成型品は図8.57のように開いたままになる。紙の場合はバネのように元にもどり完全に閉じるのであるが、FRPの場合はそうはならない。せっかく連続S字のようになったものが台無しになる。ましてこの状態から両面のフィルムを剥がすのであるからさらに変形する。手作りの段階では予想できない現象であった。冷却してからロッドをはずすのなら問題はないが、それでは面倒な成型機になる。簡単な方法は図8.58のように、開いた成型品を押し戻すというより、ブレーキをかけるのである。あまり力を加えるとロッドがはずれなくなるから、もっと離れた位置で行うことになる。これらは運転してみての試行錯誤以外に決定する方法はない。さらに成型品が冷却してからだとフィルムは、はがれやすくなる。そして成型品の幅方向の両サイドは不整になっているから切断して、一定幅にしなければならない。紙の場合には不必要な設備があちらこちらに付属することになる。フィルムは消耗品であり、かなりコストに影響を与えるがこの製法ではやむを得ないものである。

(5) 厚さの切断

FRPロールコア   紙の場合、厚さ切断は横型のバンドソーを使用する。鋸刃は木材の切断用と同じものである。これでFRPを切断するとすぐに刃が消耗し切断が不能になる。帯鋸では切断できないので、丸鋸のチップソーを使用することになる。大きさに限界はあるが、これなら使用に耐えるだけの耐久性はある。切断幅はせいぜい150 mm 程度だから、ジョイントして大きくする。しかしそれでは、作業工程が煩雑すぎるし、ハンドリングが多く、厚さムラも生じる。さらに発生する粉塵が多く、強力な俳風設備を設けても、製品や衣服に付着したものは完全に除去できない。できるだけハンドリングを少なくするには、大きいブロックを一回で切断することであり、それにはどうしてもバンドソーでなければならない。もし帯鋸にチップがついていればいい。しかしそれは常識はずれのことであり、そういう業者は皆無の筈であった。しかし多分日本ではただ一社と思える会社が存在していたのであり、そこに依頼する。やはりチップはすばらしい。難しいと思った切断もこれで解決し完成したFRPロールコアを 図8.59 に示す。だが最初の目的であった電柱のアンカーの用途は消滅した。アンカーとしては平板が唯一の手段ではないからであり、他の方法にとって変わられたのである。せっかく世界初ともいえるものを開発したのに残念ではある。しかしFRPロールコアには他にない特徴があるので、これからの応用を考え本格的な生産機械を設置し、用途開発を進めることにした。ロールコアの特許ははるか昔に切れている。というよりそれは製法特許ではないから、その成型法には特許はない。だからこのFRPロールコアの製法特許はすんなり確定した。いやたとえ従来のロールコアの製法特許があったとしても異なる要素を含んだこの特許は成立したであろう。

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