ものづくり技術手帳

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第二章 物質(T)

第二章 目 次  2.1 気体  2.2 液体  2.3 原子の世界  2.4 固体  2.5 物質の平衡  2.6 原子の崩壊
コーヒータイム(2)諺    執筆後記(第二章)

 2.5 物質の平衡(溶液、化学、電離)

 平衡とは 高いところにあるものは落下し、水と湯を合わせると均一の温度になる。濃い液と薄い液を一緒にすれば濃度は均一になる。日常経験しているこれらのことは、すでに様々な法則の形で表されている。圧力、温度、濃度などに差があるところには必ずそれらが平均化する方向に向かう。それは原子レベルでも変わりはない。これらの現象が独立して起こることはなく、すべての現象が関連して生ずる。その現象に大小があり、目立った現象だけに注目してそれぞれの法則ができる。
物質の移動について気体や液体についてのみ化学的に考察し数量的に扱うのがここでいう平衡である。物質が水に溶ける、化学変化をするなど、独立の現象のように見えても、すべては平均化する、つまり平衡ということに関連しているのである。

  2.5.1  溶液の性質

   (1)  溶液

 水は何でも溶かす。溶けない物質の方が少ないくらいである。2種類以上の物質が均一に混合している液体の状態にあるものを一般に溶液という。そして溶けた物質を溶質といい、溶かした液体(水の場合が多い)を溶媒という。溶質は固体、液体、気体がある。エチルアルコールは水にどんな割合にでも解け合う。これを親水性の物質という。油は殆ど水にとけないが、これを疎水性(または親油性)の物質という。
 砂糖やナフタリン、食塩などの固体もよく水に溶ける。しかし溶ける量は多くの物質に限度があり、温度によって一定の値を示す。溶解とは物理現象であり、溶質が溶媒に混じり合うだけである。溶質の中にはその一部がさらに陽イオンと陰イオンに分離するものがあり、これを電離といい、電離する物質を電解質という。電離しない物質を非電解質という。

  (2) 濃度の表現法

溶解度曲線  溶媒の単位体積または単位質量当たりに溶質がどれだけ溶けているかを表す単位は計量法で認めているものだけでも十数種にもなる。
kg/m3、g/L、mol/L、ppm、ppbなどなどである。化学の分野では%濃度や規定度などが用いられてきたが、規定度はmol/L に変更するよう勧められている。故にここではmol/L に統一する。L が kg の場合もあるが、溶媒が水なら同じである。
各種反応式においてある物質の濃度を表すのに[H2O]のように []でくくった場合その物質の濃度を表している。
もちろん単位は(mol /L)である。

  (3) 溶解度

  溶質がそれ以上溶けなくなった状態は平衡状態であり、溶解平衡という。そして溶解平衡に達した溶液をその温度での飽和溶液という。この飽和状態にある溶液の濃度を表すのに 100g の溶媒に溶ける最大の溶質のg数を溶解度という。 前頁の図 2.21 は温度と溶解度の関係を示した溶解度曲線の図である。温度が高くなるほど溶解度が大きくなるのは日常経験している通りである。 種々の物質が溶けている飽和溶液を徐々に温度を下げていくと、溶けきれなくなった溶質が結晶となって析出する。この現象は不純物の混じった物質の精製に利用される。通常不純物の量が少ないので目的の物質が析出しても、不純物は溶液として残るからである。このような溶解度の差を利用して物質を精製する方法を再結晶法という。

  (4)  気体の溶解度

気体の水に対する溶解度  液体に溶ける物質は何も液体や固体だけではない。気体も溶けるのである。ただ溶ける量が極端に少ない。この場合に溶ける量も温度や圧力に大きく影響する。そして圧力に関しては「一定の温度においては一定量の液体に溶ける気体の質量は気体の圧力に比例する」のである。これをヘンリーの法則という。これを言い換えれば「一定の温度において、一定量の液体に溶ける気体の体積は圧力によらず一定である。」となる。これは溶ける気体がボイルの法則に従うからである。もちろん例外はあり、アンモニアや塩化水素などは水の容積の何百倍も溶けるのでこの法則は適用できない。気体の溶解度を表すには温度が一定であれば、圧力に無関係である。
図2.22 には気体の溶解度の例を示した。
気体の場合は温度が高いほど溶解度は低くなる。水道水の塩素は沸騰させれば殆ど飛び去ってしまうことがこの図からもわかる。

  (5) コロイド溶液

  溶液の場合、溶質の種類や大きさによってその性質も大きく異なりその名称も様々な表現になる。前述したように水に食塩が溶ける様な溶液の場合、粒子の大きさは原子や分子の大きさになり完全な溶解状態にあり、これらの関係は溶媒と溶質ということはすでに述べた。液体に溶ける粒子がさらに大きくなるとコロイド溶液という(図2.23 参照)。この場合正確には溶けるのではなく分散していると表現する。故に溶媒は分散媒となり、溶質は分散質と名前が変わる。
 そしてコロイド溶液をゾルという。分散媒がなくなり分散質だけが残ったり、コロイド粒子が編目状に繋がったものをゲルという。その例として豆腐、こんにゃく、ゼラチン、ゼリー等がある。完全に水分(分散質)を失って乾燥したものをキセロゲルという。キセロゲルは溶媒につけておくと溶媒を吸って膨れる。この現象を膨潤という。その例として木材、米、豆、寒天、毛、爪、シリカゲル等である。また水に液体が分散する場合もあり(牛乳、マヨネーズなど)、これを乳濁液(エマルジョン)という。
 さらに水(分散媒)に気体が分散する場合もある(泡、生クリーム)。 通常は透明に見えるコロイド溶液に横から光を当てると、コロイド粒子が光を乱反射するために光の通路が目視できる。これをチンダル現象という。またコロイド溶液におけるコロイド粒子は絶えず不規則な運動をしていることが限外顕微鏡によって観察できる。これをブラウン運動といい、これは分散媒分子の熱運動によって、コロイド粒子が動かされていることが判明している。
さらにコロイド粒子はろ紙を通過するが、ろ紙より目の細かい半透膜は通過しない。そこで、半透膜の袋にイオンなどを含むコロイド溶液を入れ、この袋を水の中に浸して放置すると、イオンや小さな分子は袋を通って水のほうへ移動する。 このようにしてコロイド溶液を精製することを透析という。
 U字管にコロイド溶液を入れ、両端の開口部に電極を浸して100V程度の直流電流をかけて、しばらくすると、コロイド粒子が一方の極に移動する。この現象を電気泳動という。コロイド粒子は帯電していることになる。正に帯電しているコロイドを正コロイド、負に帯電しているコロイドを負コロイドという。
コロイド溶液は次のように分類できる。

疎水コロイド 疎水コロイドは水に不溶性の物質がコロイド粒子となって、水中に分散している。このコロイド溶液は   少量の電解質を加えると沈殿する。この現象を凝析という。
         《例》硫黄、金、水酸化鉄(V)などのコロイド溶液
親水コロイド 親水コロイドは、水に可溶性または親水性の物質がコロイド粒子となって、水中に分散している。この  コロイド溶液は多量の電解質を加えて始めて沈殿する。この現象を塩析という。
          《例》デンプン、タンパク質、セッケンなどの水溶液
保護コロイド 疎水コロイドに親水コロイドを加えると、疎水コロイド粒子のまわりを親水コロイド粒子が包み、沈殿  しにくくなる。このように、疎水コロイド粒子のまわりを包んだ親水コロイド粒子を保護コロイドという。
《例》墨汁に含まれる にかわ は、疎水コロイド粒子の炭素粒を親水コロイド粒子が包んでいる。

粒子の大きさ

2.5.2  化学反応と平衡 

  (1)  反応速度

 元素と元素が結びつく現象、または化合物が分解したり、化合物どうしが結合することを化学反応といういう。一般的に化学反応を起こさせるためには、温度を上げる、濃度を上げる、圧力を上げる、そして触媒を使用する等である。濃度に無関係に反応が進行する場合を0次反応といい、反応物質が一種類で反応速度が濃度に比例する場合を一次反応という。濃度の二乗に比例するかまたは2種類の反応物質の各濃度に比例する場合は二次反応という。三次反応はほとんどなく四次以上は例がない。
反応速度R(mol/L・s)の一般式は次の式で表される。
     [A]a[B]・・・・・・・・・・・・・・・・ (18)              
             R:反応速度、:速度定数、 a + b:反応次数
     たとえば  N2O5→ NO2 + (1/2)O2 の場合は R[N2O5] となり一次反応である。
                2 HI→ H2 + I2  の場合は     Rk[HI]2 となり二次反応である。
                H2 + I2 → 2 HI の場合は     R[H2][I2] これも二次反応である。
(18)式における [ ] は濃度を表す記号である。この中に記された物質の濃度であり、[ ]全体を 一つの数字として扱う。数式の中での英文字と同じである。
 反応が起こるためには物質どうしが衝突(接触)する必要があり、濃度や圧力(気体の場合)を上げるのはこれを促進するためである。さらに反応が起こるために必要な一定量以上のエネルギーが必要であり、温度を上げることはこれを与えることでありこのエネルギーを活性化エネルギーという。
また活性化エネルギーを下げることも反応を促進させ、この作用をするのが触媒である。逆に反応を抑える作用をする物質を負触媒という。ガソリンの異常燃焼を抑制するアンチノッキング剤がこれに相当する。

  (2)  化学反応熱 

 化学反応が起こると必ず発熱や吸熱が生ずる。水素は酸素と結合して水を作り、このとき熱を発生する。
この場合の化学式は   2 H2 + O2 = 2 H2O
 であるがこれを次のように書くと熱化学方程式となる。
     H2(気)+ (1/2) O2(気)= H2O(液)+ 280 kJ・・・・・・・・・・・・ (19)        
 方程式だから矢印ではなく等号を使用する。また反応熱には燃焼熱、生成熱、溶解熱、中和熱、融解熱、蒸発熱があり、等号の右側に書く。物質の状態は括弧の中に記入する。炭素が酸化してCOになる場合の反応熱(生成熱)は 111 kJ であり、これがさらに酸化してCO2 になるときの反応熱は283 kJである。
炭素から直接 CO2 に反応させたときの反応熱(燃焼熱)は、前の合計値 111 + 283 = 394 kJ である。
あたりまえのようであるが、これを次のように表現したのがヘスの法則(総熱量保存の法則)である。
「反応熱は反応の前後が同じであればどのような反応経路をとってもその総和は変わらない」。
従って熱化学方程式は、数学の式と同じように足したり引いたりできる。化学式の場合、係数に分数を付けないが、熱化学方程式では先頭項を1 molとするので、他の項には分数の係数がつくことがある。

     燃焼熱は 物質 1 mol が完全燃焼する熱量。すべて発熱反応である。
     生成熱: 物質 1 molがその成分元 素の単体から作られるときの熱量。黒鉛からメタンができるときな              ど吸熱もある。
     中和熱:酸と塩基が 中和して水 1 mol ができるときの熱量。
     溶解熱、融解熱、蒸発熱: いずれも物質 1 molについて出 入りする熱量である。

  (3)  化学平衡

  先に示したヨウ素の反応を高温の容器内で行うと
   2 HI(気)→ H2(気)+ I2 (気) と
    H2(気)+ I2 (気)→ 2 HI (気)  はどちらにも移行する。このような反応を可逆反応という。これらの反応速度が一致した場合、化学平衡の状態という。この場合
        H2 + I2  2 HI 
は平衡状態を表し、こような化学平衡の状態にある物質の平衡定数 は次式で表される。
         
     K : 平衡定数、  [ ] :モル濃度(mol/L)、指数 2 は反応式の係数
このような関係を化学平衡の法則または質量作用の法則という。温度などの条件が一定ならば K も固有の値となる。しかし平衡状態にある時、温度、圧力、濃度などの条件を変えると反応がある方向に移動して新しい平衡状態になる。そのとき移動の方向は条件の変化を妨げる方向になる。
これを平衡移動の原理(ルシャトリエの原理)という。
反応が一方通行の場合、たとえば  NaCO3 + CaCl2 →  CaCO3 + 2 NaCl
の反応は生成した炭酸カルシウム(CaCO3)は沈殿し元に戻ることはない。これを不可逆反応という。

  2.5.3  酸と塩基 

  (1)  水 

 純粋な水でも極わずかイオンに分解しているため微少の通電性がり、次のような平衡状態にある。 
    H2 H+ + OH
このようなイオンに分かれることを電離という。電離するイオンと電離しない水とが平衡状態になり、これを電離平衡という。電離平衡が成立するときそれらの比 K電離定数(平衡定数、解離定数)といい、次のようになる。
             
 ここで水の電離度は極めて小さいから、それが多少変動してもほとんど分母の大きさは変わらない。つまり
    [H+][OH]= [H2O] = 一定であり、 [H2O] = Kw としてこの Kw水のイオン積という。
そして純水(中性)のイオン積 Kw
   Kw =(1.0×10−7)(1.0×10−7)=10−14  (mol /L)2 である。
水に塩酸や硫酸などの強酸がとけると、水素イオン濃度[H+]が多くなり、苛性ソーダなどの強アルカリ性になると水酸イオン[OH]が多くなる。しかしどちらの場合も水のイオン積Kwは不変である。つまり、片方が多くなればもう片方が小さくなり、積の値が一定なのである。故に [H+] だけを対象にしても酸性、アルカリ性の指標とすることができる。だがあまりに薄く範囲が広いので、簡単な表示にするよう考えられたのが水素イオン指数(pH)である。 [H+]の値の逆数の常用対数として定義したものである。
               
pH はピーエッチとよむ。水素イオンは水と結合してH3O+オキソニウムイオン)の形で存在するが、通常はH+ で表現する。pH による酸、塩基の判定は次のようになる。 
   [H+] > 10−7  pH < 7   酸性
   [H+] = 10−7  pH = 7  中性
   [H+] < 10−7  pH > 7 塩基性(アルカリ性)

  (2)  酸と塩基の定義

電離定数、電離度「酸とは水溶液中で[H+]を生じる物質であり、塩基とは[OH]を生じる物質である」という分かりやすい説明はアレニウスの定義である。しかし酸や塩基は水中以外でも生じる。故にこれを拡張した「酸とは[H+]を放出するもの、塩基とは[H+] を受け取る分子やイオンである」とするのがプレンステッドの定義である。しかしこれでは相手によって水が酸になったり塩基になったりする。そしてルイスは「酸とは共有結合を形成するため電子対を受け取るもの、塩基はそれを与えるもの」として、より一般化した定義をし、現在重要な概念となっている。酸と塩基が中和して水ができ、そのとき同時にできる水以外の物質をという。この塩には正塩(完全に中和した塩)、酸性塩(酸のHが残っている)、塩基性塩(塩基のOHが残っている)等がある。これらの塩が水溶液となったときに示す酸性度と塩の呼称とは関係がない。 酸や塩基類の水溶液は、それら溶質の一部または全部が電離してイオンとなる。このように電離する物質を電解質という。これらの水溶液で電離している電解質の量と溶けている電解質の全体量との比を電離度(α)という。強酸(HCl)や強塩基(NaOH)などの強電解質は完全に電離して電離度は1となる。弱電離質(酢酸、硫化水素等)は一部が電解するのみで、ここにも電離平衡が存在し質量作用の法則が成立する。たとえば酢酸を水に溶かすと次のような平衡が成立する。
          CH3COOH  CH3COO- + H+
そして次のように分離したイオン濃度の積と未解離の物質の濃度の比 Ka電離定数(or 解離定数)といいそれは次のようになる。(添え字 a は酸を意味する)
         
これも温度のみに関係する平衡定数の一つであり、水のイオン積と同じようには、電解質の濃度変化や他の物質の存在による影響を受けない。またこの電離平衡においても平衡移動の原理(ルシャトリエの法則)は成立する。

  (3) 弱酸と電離度

(22)式のように弱酸の場合 Ka と書きこれを酸の解離定数という。
酢酸の濃度をc(mol/L)とし、電離度をαとすると電離後の酢酸の濃度はc(1−α)、両イオンの濃度は同じ
cαとなる。(22)式に代入すると次のようになる。
     Ka = cα× cα/c(1−α) = cα2 /(1−α)・・・・・・・・・・・・ (23)       
酢酸の電離度は非常に小さいので、1−α=1とすると
     Ka = cα2 また α=(K/c)1/2 となる。 このときの [H+] は
          [H+] = cα=  
濃度が非常に小さい場合は(23)式から二次方程式を解いてαを求めることになる。

  (4) 弱塩基と電離度 

  アンモニアのような弱塩基の場合、次のような平衡状態になる。
       NH3 + H2O = NH4+ + OH
平衡関係から次の平衡式が成立しこのときの K を塩基の解離定数という。
       
このときの [OH] は [OH] =cα=   濃度cがあまり小さくないとき [H+]は
           [H+] =Kw / [OH] =・・・・・・・・・・・・(25)         

      ※ 弱酸、弱塩基の解離定数は非常に小さいのでこれを pH の場合と同じように の逆数の対数をとり pKa または pKb で表し、解離指数という。 pKa =log(1/Ka) =−logKa

  (5)  塩の加水分解

  酸と塩基が反応(中和)してできた塩は水に溶かすと、水と反応して元の酸や塩基に戻り、酸性または塩基性を示したりする。これを塩の加水分解という。塩は水溶液中では完全に電離している。
たとえば酢酸ナトリウムが水に溶けるとき酢酸の陰イオンとナトリウムに電離するが、酢酸イオンは、水素イオンと結合して、酢酸分子に戻る。 [H+]が消費された分、[OH] が増加し、Kw の値を保つ。
酢酸ナトリウムは水溶液で次のように分離する。
      CH3COO H2O  CH3COOH + OH
この平衡で水の濃度を一定として次のように定義し、Kh を加水分解定数という。
           
この場合 (22)式と(26)式の積は酢酸が消去されて、水のイオン積だけが残り、次の関係になる。
         KaKhKw ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(27)        
 また  となり、このときの [H+] は 次のようになる。
         

  (6) 緩衝溶液と共通イオン効果 

  溶液に少量の酸や塩基を加えてもほとんど pH が変化しない溶液を緩衝溶液という。一般的に弱酸とその塩や弱塩基とその塩の混合物は緩衝液となる。
たとえば 濃度c(mol/L)の酢酸溶液 1(L)にs(mol)の酢酸ナトリウムを加えた場合、酢酸の電離度をαとすると、分子やイオンの濃度は次のようになる。 
    
     
酢酸の電離度は小さいので、電離した酢酸イオンは元の酢酸分子に戻り、(30)は左に移動し、酢酸の濃度はcになる。しかし(30)の平衡すなわち(22)式の関係は酢酸ナトリウムが存在しても影響されないから
(22)式を変形すると
         
(31)式から目的の pH の緩衝液を製作できる。またこの液の緩衝性は次のように説明できる。この溶液に少量の酸が追加されると酢酸イオンが塩の溶液として十分存在するので、酢酸ができて追加された酸[H+] が消費される。少量の塩基が追加されると水酸イオンは酢酸を分解して水と酢酸イオンになり、[OH]が消費される。いずれも追加した酸や塩基が消費され、pHを一定にする。

  (7) 溶解度積(難溶性塩)

  水にほとんど溶けない難溶性の塩も、わずかだが水に溶解してそれのほとんどは電離し電離平衡が成立する。たとえば難溶性の塩 AmBm が水中で次のように平衡が成立しているとする。
          AmBm mAnnB 
       
難溶性塩の溶解度は非常に小さいので [AmBm]を一定とするとK× [AmBm] もまた一定となる。
故に次のような関係が成立する。 
         [An+][Bm−] = K [AmBm] = ・・・・・・・・(33)       
この Ksp溶解度積(or 溶解度定数)という。考え方は水のイオン積の場合と同じである。
この場合も溶解度積は一定であるから、一方が増えれば、もう一方が減少する。
たとえば  AgCl の溶解度積は 1.8×10−14 (mol/L)2
故に [Ag] =(1.8×10−14 1/2 =1.3×10−7 mol/L
この AgCl の溶液に濃度が1.0×10−2 (mol/L)の塩酸(HCl)や塩化ナトリウム(NaCl)などを加えると、それらはすべて電離するので [Cl] もそれらと同じ濃度になる。
[Ag] [Cl] = Ksp =1.8×10−14 であるから
[Ag] =Ksp / [Cl] =1.8×10−14 /1.0×10−2 =1.8×10−12 mol/L となり、最初に溶解していた銀 1.3×10−7 (mol/L)は過剰となり、この差だけ AgCl が沈殿する。
溶解度積の単位は反応物質の化学式により、変化し一定していない。

 2.5.4 酸化と還元 

標準電極電位「酸とは水に溶けてH+を出すもの、塩基とはOH-をだすもの」といえば解りやすい説明である。同じように「酸化されるとは酸素と化合すること、還元されるとは水素を得ること」といえば解りやすい。しかし突き詰めていくと「中和反応」も「酸化還元」も電子のやりとりだ ということになる。物質が電子を失うとき酸化されたのであり、電子を受け取ると還元されたとする。これを前提として酸化還元反応では、酸化数という考え方を導入する。物質中の原子やイオンに酸化数を割り当てその変化により酸化還元反応を判断するのである。酸化数が増加すると酸化された、それが減少すると還元されたと判断する。
  1. 電気的中性の単体原子の酸化数をゼロとする。
  2. 単一原子のイオンはそのまま、そのイオンの価数を酸化数とする。多原子イオンでは各原子の酸化数の総和はそのイオンの価数に等しい。
SO42− では S=+6 、NH4+ では N=−3
  3. 分子に含まれる水素は1、酸素は−2 の酸化数とする。(但 し      例外もあり、H2O2の場合のOの酸化数は−1である)
  4. アルカリ金属は+1、アルカリ土類金属は+2の酸化数とする。
  5. 電気的に中性の化合物に含まれる原子の酸化数の和はゼロとする。
  しかしこのように決めても、すべてがこのようになるわけではない。たとえば二酸化硫黄SO2は水に溶かすと亜硫酸となり、水を還元する。
SO2 + 2H2O → SO42- + 4H + 2e-
最初のSの酸化数 4 が 6 となり、相手を還元して自らは酸化される。しかし相手が硫化水素 H2S だと SO2 は還元されてしまう。    
SO2 + 2H2S → 3S + 2H2
SO2 のSは 4 がゼロに、H2S のSは 2 がゼロとなり、還元されたことになる。酸化数は便宜的、相対的な概念であるから、原子に固有の値でもなく相手によっても変化するものである。また酸化還元は同時に起こるので、ある物質が「酸化された」ことと「酸化した」こととは全く逆の意味になる。「酸化された」とは相手を還元したことであり、「酸化した」とは自身が還元されたことである。故に酸化剤とは相手を酸化し自身は還元される物質であり、還元剤とはこの逆である。これも相手によって異なり、酸化剤が還元剤になることもある。いずれにしても、酸化数の変化はやりとりされる電子数の数に等しい。そしてその強さは 表2.11 に示したように標準電極電位(E0)の大きさで表される。 E0 の単位は(ボルト)V であり、これで酸化還元もイオン化傾向(下欄に示す)も電気分解も電池もその基本現象を説明することができる。イオン化傾向は電位E0が小さいほどイオンになりやすく、電池も正極負極やそこに介在する物質により起電力が決まる。電気分解においてファラデーの法則が成立するのも、E0 が条件に応じて一定値を示すからである。


イオン化傾向
Li・K・Ca・Na・Mg・Al・Zn・Fe・Ni・Sn・Pb・(H)・Cu・Hg・Ag・Pt・Au

 2.5.5  電池 

ガルバーニはカエルの解剖の際、鉄の窓格子においたカエルの脚に真鍮の棒をふれると痙攣することを発見した(1791)。この現象から異種の金属を接触させると電気が発生することがわかり、この結果からボルタは「ボルタ電(でん)堆(たい)」を発明した。それは銅と亜鉛の板の間に塩水を染みこませた紙を挟みこれを何層にも積み重ねたものである。それはさらに工夫されて塩水の紙は希硫酸となり、「ボルタ電池」となった。それまで静電気(電気盆)しかなく連続して電気を取り出せる電池は画期的なものであった(1800)。
  一次電池
ダニエル電池 電圧が下がるともとに戻せない使い捨ての電池 を一次電池という。
 (1)ダニエル電池
  「ボルタ電池」は電流が長続きせず減っ ていく。これは銅(+極)にたまる水素が泡となり、水素イ オンの付着を妨げるからである。これを防ぐには水素イオンの代わりに銅イオンを使う。亜鉛電極側は同じ硫酸亜鉛とし、銅電極側を硫酸銅とする。そしてこれらが混ざらないように素焼き板を入れて隔離する。1836年にダニエルにより発明され、水素の付着はなくなった。

マンガン乾電池 (2)マンガン乾電池
 ダニエル電池は改良を加えられ、1868年にはマ ンガン電池が発明された。正極  に炭素、陰極に亜鉛そして電解液には 塩化アンモニウム、正極材料として二酸  化マンガンを使用した。これ はさらに改良され、塩化アンモニウムをペースト  状にしたマンガン乾 電池が1888 年 に開発された。
 (3)アルカリマンガン乾電池
 マンガン乾電池の電界液を KOH に置き換えたものである。水溶液でも漏れなく  なり、電解液の抵 抗が少ない。マンガン乾電池より放電容量が大きく内部抵抗  が小さ いので大電流放電に適する。
 (4)リチウム電池
  正極に二酸化マンガン(MnO2)と負極に金属リチウム( Li)、電解液は有機溶媒を使用。1 セルあたりの  電圧はおよそ3Vであり、高容量で軽量、低温特 性や電圧の安定性に優れ自己放電が少ない。形状が特殊なた  め乾電池などの互換性がない。尚正極には MnO2以外にフッ化黒鉛、塩化チオニル、硫化鉄、酸化銅なども使  われる。大型の電池には不向きである。用途はカメラ、衛生機器、ライト、ラジオ、電子錠、医療機器、電子  メーター(水道、ガス)等。
 二次電池:
  充電によって繰り返し使用できる電池を二次電池という。
鉛蓄電池 (5) 鉛蓄電池
陽極は酸化鉛(PbO2)と陰極は鉛(Pb)、電解液には約30%の希硫酸(H2SO4)を用いる。これを交互に組み合わせたものであり、1 セルあたりの電圧はおよそ 2 Vである。12 V 用 バッテリーは6セル直列となる。大電流出力が可能で、大容 量でも比較的コストが安い。
 (6) リチウムイオン電池
負極は黒鉛、正極はコバルト酸リチウムである。電解液はリチウム塩を有機溶媒に溶かした液を使用する。電解質中のリチウムイオンが電気を伝える。電圧は4.1 V である。

  電池の起電力は正極と負極のイオン化傾向の差つまり標準電極電位(E0)の大きさにより決まる。ダニエル電池の場合は負極のZnは前頁の表 2.11 から E0 =−0.76、正極の銅は  E0 = 0.34 であり、この差は 0.34−(−0.76) = 1.1 であるから起電力は 1.1 V である。リチウムは最もイオン化傾向が小さく、E0 = −3.05 であり、これと組み合わせる正極の E0 との差は大きいから起電力も 3 Vとなる。

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