第二章 目 次 2.1 気体 2.2 液体 2.3 原子の世界 2.4 固体 2.5 物質の平衡 2.6 原子の崩壊
コーヒータイム(2)諺 執筆後記(第二章)
アリストテレスの時代(BC360年頃)にはすでに、9種類の元素(炭素、銅、金、鉄、鉛、水銀、銀、硫黄、錫)が純粋な形で得られていた。しかしその時代の人々はそれを元素と認めなかった。アリストテレスの4元素説にこだわっていたからである。時代は過ぎてボイル(1627〜1691)は
かってデモクリトスが 提唱したと同じような元素説を多くの実験の結果として展開する。「元素は単純で純粋である。作り替えることのできない成分であり、混合物を合成もできるし分解もできる」というものであり、4元素説を否定した。
しかしボイルはこのとき従来から知られていた前記9種類の元素を元素とすることはできなかったのである。このときはまだ何が元素かということを確定する手段がなかったのである。
ボイルの死後、シュタール(1660〜1734)はフロギストン説(燃える元素)という最もらしい理論を展開し、混乱を生じさせる。これは4元素説の一つ、「火が元素である」という説の焼き直しであった。木が燃えて灰になるのはフロギストンが出て行ったからであるという説明は合理的なようであるが、すべてがこのように説明できるわけではない。燃焼したら重くなる物質については説明がつかないという矛盾を露呈した。
これに対しラボアジェ(1743〜1794)は 金属の燃焼前後の物質の重さを精密に測定し、「その前後の全質量は全く同じである」ことを明らかにした。これによってフロギストン説も4元素説も終焉することになる。しかしこの時点ではまだ燃焼にかかわる酸素という物質は明らかになっていないし、彼が元素であるとした32種の中には化合物の他に光や熱さえあげられている。
この元素の概念を完成に近づけたのはドルトン(1766〜1844)である。彼は元素の最終単位は原子であり、同種の原子は同じ形状、同じ大きさ、同じ重さを持つとした。さらに化学変化は原子の結合、または分離であり、その組成から化合物の重量比が推定でき、その分子式を決定できるとした。これはデモクリトス以来のボイル、ラボアジェ の後を継いだ原子論の復活であった。原子に特有の重さがあるということは重さで元素を識別できる。原子自体の真の重さは解らなくても比較なら可能だ。最も軽い水素を1とし、これを基準として他の元素の原子の重さを相対的に定めることができる。これによりドルトンは原子量表を作る。原子に量的因子を導入したことは大きな前進であり最終的には正しい原子量算定へと向かうのである。
しかしドルトンは画竜点睛を欠いた。単体の気体粒子に、O2 や H2 を 認めず、それらを単に、OやHだと主張したのである。そして彼の元素記号は文字ではなく独特の図式的マークである。元素記号を円と点と線で表すのである。酸素はマル (○)、水素はマルの中に点を付ける、硫黄はマルの中に十字形をつけるといった具合である。当時錬金術師が用いていた絵記号が混乱を来たし水銀だけでも20以上、鉛にも14以上の記号が使われていたという。元素記号は一つであるべきであろう。現在の文字記号はベルセリウス(1779年〜1848)によって提案されたものであるが、ドルトンはこれを拒否し自分の記号に固執した。元素記号が文字でなければならないという理由はなにもない。文字なら覚えやすいというだけであり、せいぜい100個程度であるから、絵記号でもよかったのかも知れない。
この時代(1860頃)、発見された元素はすでに63種類となっていた。これだけ数が多くなると元素には似た性質があり周期性があるかもしれない。この考えで元素を分類し周期表を発表したのがメンデレーフ(1834〜1907)である。ほかにニューランズやマイヤーも同じ発表をしたが、元素を並べる方法が違っていた。
メンデレーフは63種の元素を無理に並べようとせず、繋がらない所は空白にした。このことにより将来発見されるであろう元素を予言したのであり、それが的中したのである。高校の化学の教室や教科書に必ず顔を出す色鮮やかな元素の周期表、それを次ページの図2.16に示す。

「物質は分割できない粒子からなる」という、かっては否定された理論が正しいことが実証された。元素の種類は限られており、自然の元素は92種(水素1からウラン92)まである。その他の元素は人工的に作られ、天然には存在しない。原子の構造を解明するのに実に多くの科学者が携わったことを図2.1に示した。そして原子の構造は中心に原子核(陽子と中性子)があり、その周囲を電子が回っている。陽子の数と電子の数は等しく、原子は電気的に中性である。そして原子の大きさは原子核の約50,000倍もある。原子は電子の広がりで決められるから、電子は空間だらけのスカスカなのである。そして、電子には決められた軌道(内側からK、L、M、N、O、P、Qという電子殻)があり、それぞれの殻には表 2.6 のようにK=2、L=8、M=18、N=32というように2n2の形で収容される電子が決まっている。そして電子はK殻から順に埋まっていくのであるが、番号が大きくなると必ずしもそうはならない。この電子軌道も電子雲といわれる複雑なものであるが、この電子軌道の最外殻の電子がその元素の化学的性質を決定する。最外殻が満たされた場合を閉殻という。そして最外殻の電子数が8になったとき、安定する。希ガス類はHe以外はすべて最外殻が8であり、化学結合はせず原子の状態で単独で存在する。
元素に付けた番号であり、陽子の数(電子の数)をあらわす。さて最初に天然の元素は原子番号1〜92までと述べたが、実は原子番号43(テクネチウム)と61(プロメチウム)は自然には存在しない人工の元素である。93〜109までの人工放射性元素の中の94(プルトニウム)は天然にごくわずか存在しているようである。
陽子の数と中性子の数を足した値が質量数である。電子の質量は小さいので無視する。従って質量数 12.0000 の炭素は 陽子が6 、中性子が6 である。この質量数12.000 を基準にして他の元素を相対的に表したのが原子量である。陽子と中性子が同数であれば簡単なのだが、殆どの元素は大きいものが混在している。原子番号が同じで質量数が違う原子を同位体(アイソトープ)という。数種の同位体の平均値を原子量とするのでそれには端数がつく。炭素にも同位体があり、その原子量は同位体の平均値であるから端数がついて 12.01となる。
元素の電子配列は表2.6で示した。最外殻の電子が主にその元素の化学的性質を決めるのであるが、最外殻だけでなく内側の電子配列も、元素の電磁気的性質やその他の物理的性質を決定する。元素は原子番号が一つ増えれば、最外殻の電子が一つ増えるというのが典型元素である。遷移元素は、原子番号が増えても、内側の殻で電子が増えて、最外殻の電子は1か2である。遷移とは移り変わるという意味であり、これからすると典型元素こそ遷移元素と言えなくもない。遷移元素(遷移金属)という言葉の歴史的意味はさておき、周期表に大抵記載されているこれらの言葉にあまりこだわることはないであろう。
放射線を出す元素のことである。放射線を出しながら自ら別の元素に変わっていく(崩壊)。放射線の種類は以下のように3種あり、それぞれ崩壊の態様が異なる。
1.α崩壊 α線を出して崩壊する。α線 は中性子2個と陽子2個からできているヘリウムの原子核である。この崩壊では、原子番号が2小さくなり質量数が4小さくなった新しい元素ができる。
2.β崩壊 β線を出して崩壊する。β線は電子の流れである。この崩壊では中性子1つが陽子に変換し、原子番号が 1 増加した新しい原子になる。質量数は変化しない。
3.γ崩壊 γ線を放出して崩壊する。γ線は波長がきわめて短い電磁波である。γ崩壊ではエネルギーが最小の状態である基底状態に遷移するが、質量数や原子番号は変わらない。
放射性物質は不安定で、崩壊によって安定な元素になる。そして最初の量が半分にまで崩壊する期間を半減期という。天然の放射性元素のうち最も多いウランは様々な放射性元素に壊変して行き、ついには安定な鉛または鉄になる。不安定と言っても放射性物質は原子自体の性質によるもので、他の物質と化学的結合をしても圧力や温度の影響は受けない。人工的にコントロールすることはできない。

前節E.の周期表に見られるように天然に存在する元素の数は最も重いウラン(元素番号92)まで、つまり92種類である。93以上はすべて研究材料としての人工の放射性元素であり、寿命も短い。また92種の中でも、43(テクネチウムTc)と61(プロメチウムPm)だけは人工の放射性元素であり、天然には存在しない。そして84(ポロニウムPo)から92(ウラン)までは天然の放射性元素である。これらはまた存在量がきわめて少ない。90(トリウムTh)とウランを除けは無視してよいくらいのもである。汎用的鉱物の副産物として得られる場合は別として、存在量の少ない金属は当然ながらそれを採掘するには費用がかかりものすごく高価なものになる。よほど特殊な性能がなければ、工業的に使用されることはない。ネプツニウム(原子番号93)以上は人工の放射性元素であり、これを除けばウランまで92種、これに94(プルトニウム)を足して93種、そして前述の稀少元素(43、61、69,71,84,85,86,87,88, 89,91)11種を除けば、工業的に使用可能な元素の種類は 82 種 となる。これらが相互に数え切れない化合物を作り、地球のあらゆる物質、動植物や鉱物その他を構成していることになる。
かって地殻に存在する元素の比率を調べたアメリカの地球学者クラーク(1847〜1931)という人がいた。その数値をクラーク数といい、地球の表面近くに存在する元素の組成比を概算したもので、気圏(地球の表層部0.03%)と水圏(6.91%)と岩石圏(93.06%、地下16km)にある元素の重量百分比を推定したものである(表2.7)。存在量のベストテンで全物質の99%を占めている。酸素が圧倒的に多いが、水として存在するより、鉱物が酸素の化合物として存在する割合が大きいのであろう。クラーク数自体は多くの研究により何回も変更されている。しかしどんなにサンプル数を多くしても地球の大きさからすればたかが知れている。鉱山として偏在すれば尚のこと正確な数値を考えること自体に無理があり、正しいかどうかを証明するすべもない。また絶対に正しいとしても何がどう変わるわけでもない。これらの数値はあくまで「存在量の目安」と考えることである。存在量が少ないとはいえ、多くの金属は人類が使用しきれないほどの埋蔵量がある。そしてこんなに少ない金属がと思われるものの殆どが何らかの形で人間が有効に利用していることも驚きである。さらにSe(セレン)、I(ヨウ素)、Mo(モリブデン)などはわずか(しかし金よりははるかに多い)の存在量でしかないが、これらは人間が摂取すべき必須元素とされている。それらが不足すると病気を引き起こし、逆に多く摂取すると毒になるという。稀少元素が動植物に存在することが判明しても、多くの場合その機能は不明であり、なければ命に関わるということでもないらしい。