8.1 蜂の巣を工場で作る 8.2 畑違いの用途 8.3 アルミハニカム 8.4 再び塩ビハニカム
8.5 汚水処理装置 8.6 ロールコア 8.7 再びアルミハニカム 8.8 フィルター
8.9 サンドイッチ構造 8.10 我が立つところ深く掘らば・・・ コーヒータイム(9)上杉鷹山
執筆後記(第八章)
ペーパーハニカムが始めて市販されたとき、ロールコアも含め樹脂含浸されたものだけであった。これを安価にするためにハニカムは樹脂含浸なしのものが上市された。また従来の設備を転用するだけで作れる段ボール形状の中芯材(コルゲート、図8.68)も現れた。その製法は図8.69
のようにコルゲートを作り、その片面に紙を貼り付けていく。このときの接着剤は澱粉(コーンスターチ)を使用する。通常の段ボールより段が高く約11
mm であり、鬼段と呼ばれる。これを積層して切断すれば中芯材となる。ハニカムの場合はダグラス式、巻取り式、積層式など種々の方法があるけれど、このコルゲートの場合は図8.69の方式しか考えられない。中芯材は樹脂を含浸していることが望ましいが、それを行えばコストアップになる。わずかな性能アップのために価格が高くなりすぎるから行う人は誰もいない。前述のロールコアは唯一樹脂含浸が工程上必須であり、合理的な製法となっている。
ハニカムの表面積を利用する用途は対象が水の場合は汚水処理の充填材であり、これが空気の場合、その用途はフィルターとなる。この用途に関しM社がオゾン分解用触媒をアルミハニカムに添着してフィルター(コピー機用)の開発を始めていた。この用途のフィルターは不燃性が要求されるのでその担体も不燃でなければならない。当社がそのハニカムを供給していたが、当社(というより当部)はM社の希望でフィルターの開発そのものを引き受けた。M社は触媒の供給だけでフィルターの販売も当社任せである。開発が進むに連れセルサイズは次第に小さくなりついに 1 mm が必要になる。当時当社のアルミハニカムで一番小さいセルサイズは 3 mm であり、セルを小さくするために、展張を半分程度におさえたものを使用していた。しかしそれではどうしてもセルサイズにバラツキがでる。すこしづつ売上も計上できるようになり、将来の見込みも立つようになるとこのままではいけない。正規のセルサイズ 1 mm を考えざるを得なくなる。しかしハニカムで 1 mm セルを作るのはその難しさを知っているからどうにも自信がない。作りやすいのはコルゲートかと思われる。しかしその場合、図8.70 のようにブロックが切断できなければならない。
コルゲートの積層品は、それを切断するとイバリがでる。建材用途なら問題ないが、セルが小さいものにイバリがでると、セルの目を塞いでしまう。だからこれまで、コルゲートでフィルター用途にする場合は、素材をあらかじめ必要な幅にスリッターし、後の切断を不要にするのである。製品の幅毎にスリッターした原料や製品を在庫するから煩雑きわまりないことになる。そういうことは絶対にしたくない。といって積層したブロックを切ることができなければ、これより前に進むこともできない。しかしわからないことは確かめなければならない。薄いアルミ箔一枚だけを鋸で切断すれば、その切り口は無残なものになる。それがハニカムの形になったときどのように切断されるかを知らなければならない。手元にあるのは外国から入手したセルサイズ
1.5 mm 、厚さ 6 mm 、箔厚は0.025 mm の小さなアルミハニカムのサンプルだけである。これで確かめよう。厚さ 6 mm で名刺ほどの大きさのサンプルを刃厚
2 mm 程度のチップソーで厚さを半分にするのである。「これをちょっと切って見てくれ」と部下に言った。「ええ!!、これじゃ指切っちゃうよ」「いやほんの先っちょだけでいい」。わずかな切断面にはやはりイバリができていた。しかしルーペでながめ条件が良ければ可能性ありと判断した。
そしてこのわずかな実験から 図8.70 のようにブロックを切断するという前提のもとに、アルミコルゲートの生産機械に着手することにした。もし切断がうまくいかなければ、というよりイバリが出てどうしようもないということになると、設備費の数千万円は無駄になる。イバリが出ればそれを切断後に除去することはそれこぞ不可能である。試験切断でイバリが出たのは、たまたまそこに存在した歯型と回転数によるものであり、それを調整すればイバリは問題ない程度に減少できると判断したのである。イバリの解消と他に生ずるであろう様々な問題は生産機械の製作と同時進行的に解決していくことにする。生産機械が実験機であり、実験機が即生産機械にするのである。開発段階ではやむを得ないことである。
アルミ箔の厚さは0.025 mmであり、それをコルゲート成型すると段の山の部分に亀裂が入る。このような現象はステンレス箔や銅箔では決して生じないものである。機械の調節が悪いとかそういうことでは全然ないのである。アルミハニカムの経験から原因はすぐわかった。アルミ箔には粘りがあるから、箔に滑りを持たせること、則ち離型剤を箔にスプレーすればきれいに成形できる。だがこれでは問題の解決にならない。成形直後や後の積層に際しては接着剤を使用するのであり、接着性が大きく阻害されてしまうからである。接着する場合は油分や離型剤など厳禁である。常識的な滑剤はいっさいだめであり、種々実験の結果、亀裂防止には界面活性剤の液を通過させることであった。その液の濃度が濃すぎると接着剤に影響するし少なすぎると亀裂が生じる。その極めてわずかな量は実験で決めることになる。
段ボールの製作には澱粉を接着剤として使用する。当然加熱はするのであるが、この場合瞬間接着剤など問題にならないほど高速で接着するのである。しかしこれがアルミとなるともちろん澱粉などは対象外、アルミ専用の、しかも高速で接着するものでなければならない。アルミ用なら溶剤タイプが普通であるが、それは加熱ロールに使用するのであるから除外、水溶性で検討することになる。これもやはり常識的な発想では一歩も前に進めない。これも試行錯誤の連続である。初めてのことはどこにも相談するすべがない。
ブロックの切断のために専用の切断装置を製作した。切断できるという前提で進めたコルゲートであるが、イバリの程度は鋸の歯形と回転速度によって決まる。イバリがまったくできないというわけではないがフィルターとして問題ない程度にはできる。鋸直径
約450mm、回転数は 5000 rpm 前後 であり、その切断面は図8.71である。折畳したハニカムを切断する場合より、はるかに粉塵の飛散が大きかった。このアルミコルゲート成型には予想以上に問題が多かった。ハニカムにも難しい問題はあるが、それに挑戦した方がまだましと思ったが後の祭りである。ハニカムの場合は接着剤の塗布精度と加熱プレスだけの問題で他のことはすべて経験済みだったからである。
触媒は金属化合物の粉末である。これを水に溶かしバインダーを加えてコルゲート担体にシャワーし、エアーでブローしてから乾燥する。これが添着の簡単な工程であり、図8.72
に示す。触媒やバインダーの濃度によって添着量が異なり、それはオゾンの除去性能に影響する。バインダーが少ないと触媒が脱落し、多くするとオゾンの除去性能が落ちてしまう。適度に配合した触媒液を図8.72のようにシャワーを浴びせ、次にエアーでセル内の液を落とすのであるが、これが弱いと貫通しない孔が多くなり、強くすると添着量が不足する。このエアー量の調節が難しく所定の添着量にするとどうしても貫通しない孔ができる。それも上から下まで塞がっているわけではない、表面の数ミリの深さである。フィルターを細い粗い網で受けても接触部分は孔が塞がるから両サイドをベルトで挟んで移動させている。そのことからもわずかな切断面の仕上がり、つまりわずかなイバリが原因でそうなってしまうのであろう。ほんのちょっとのことで目詰まりを起こしている。担体の面積は
10cm×10cm 程度であり、その孔の数は8800 個、その 1% が 塞がっても、88 個 の孔が塞がることになる。それが許容範囲としても、いかにも不良品という感じである。これを修正するのに針でつつくのであるが、人海戦術より他に方法がなく時間のかかること甚だしい。何か対策はないか。こういう場合は修正の方法を考えるより修正無用の方法を考えなければならないことである。
ある時、全く簡単な方法で解決したと報告を受けた。図8.72のとおりエアーの吹付けを終えた後にもう一度今度は下から上へエアーを吹付けた、ただそれだけで目詰まりは解消したというのである。
数ミリ程度の深さの目詰まりを除去するために、上から吹付けることばかり考えて実行しても、それではせっかく適度に付着した触媒をも落としてしまう。それを逆から吹いてみた。孔が貫通しても触媒が落ちることはない。孔が破れ、担体の壁面に広がった触媒はまだ乾燥していないから、上に押し上げられた分エアーが止まればもとに戻るだけであり、脱落もせず、孔を塞ぐこともしない。これはすでに貫通している所も同じである。もちろんエアーの強さや時間の調節を行ったのは当然であるが、あの人海戦術が解消し、不良率も激減したのである。単に上から下を逆にしただけではないか、しかしこの程度のことがなかなか思いつかないのであり、こういうことで解決する問題も多いのである。折畳状態で切断するハニカムにはイバリは皆無であるからこういう問題は起きなかったであろう。イバリは何とかなるとして踏み切った今回の方法であるが、こんなところに影響するとは予想できなかった。きれいに添着できたフィルターの拡大面が図8.73
である。
当初触媒の購入に際し受入検査はしていなかった。
しかし触媒の性能にバラツキがあることがわかり、受入検査をすることになった。しかし実物と同じフィルターを作りオゾン分解のテストをしていたのでは時間がかかりすぎる。触媒のメーカーサイドにも適当な検査方法がなかったから、当社が受け取ってから不合格などという不都合なことが起こる。輸入品であるから、納入後の不合格は致命的である。何か簡単な方法がないかと思案しているとき、この触媒にMEKなどの溶剤を誤って添加したとき突然発火したことを思い出した。そうだあの現象が利用できるかも知れない。テストの結果、性能の悪い触媒は発火速度も遅い。これを基に発火速度とオゾン分解能との関係をしらべ、検査方法を確定した。触媒に1、2滴の溶剤を点滴するだけで、合否の判定が出来る。従来の判定法と比べれば雲泥の差である。これは簡単で即座にできる検査であるため、メーカーもこの検査法を受け入れ出荷前に自社で検査し、それ以後当社での検査は不要になった。この検査法は双方に大きなメリットとなった。
設備を設置するにはそれなりのスペースが必要になる。それまであちこちのプレハブに散在していた当部の実験場を一カ所に集めることにした。いわゆる研究所の建設である。このフィルターの売上げによる利益でまかなえるかもしれないという乱暴な計画をたて、専用の建物を建築する。当方の希望通り建築し、それを長期間借用するのであるが、総床面積
1100 坪の3階建てである。会社の規模からすれば、考えられないような大きい規模である。この建物に技術開発部の看板をつけると本体はどんな大会社かと思われそうである。当時の親会社(本州製紙)の中央研究所と同じくらいの規模なのだ。しかし単なる研究所ではなく、開発をし製造機械をつくり、生産や販売を行い、軌道にのれば人も設備もすべて工場として本社に引き渡すのである。そういう役割を果たすことを考えれば、あながち身体に不釣り合いということもないであろう。そしてこのうちのワンフロアすべてをこのフイルター関係で占めることになった。※1 どこで調べたのか、あるとき「全国試験研究所名鑑」というような分厚い書籍が送られてきた。当社の研究設備、建物、研究テーマ、予算、人員などを登録するから報告をお願いするというのである。この本は公共の研究機関や企業の研究施設等の規模がわかるようになっていた。民間企業の部分を見て、名のある企業でもその会社の規模からすれば研究開発態勢がお粗末なのが多いのには驚いた。
しかし研究開発に、人員や投資を多くしたからといって開発が必ず成功するとは限らない。大まかに比例はするかもしれないが絶対ではない。予算や人員が少なくても、要はそれに携わる人の質にも大きく関係する。直接開発に携わる人だけでなく、経営トップの姿勢にもよる。だからといって研究や技術開発をおろそかにしてよいわけではない。それでは企業の発展は期待できず、いずれ衰退の危機にさらされることになる。「ものつくり」において規模の大小はともかく、技術開発は必要不可欠であろう。
※1 平成2年に建設されたこの研究棟は平成 8 年 私の退職した年に閉鎖されることになる。
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