ものづくり技術手帳

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第七章  ものづくり周辺

第七章 目次  7.1 特許  7.2 財務諸表   7.3 直接原価計算   7.4 製図の基礎  7.5 接着の基礎 
 7.6 物理定数   コーヒータイム(8) 杉原千畝    執筆後記(第七章) 

7.2  財務諸表

 財務諸表とは貸借対照表(B/S)損益計算書(P/L)キャッシュフロー(C/F)をいう。これらは企業会計に基づいて作られ、株主に対して毎年の報告が義務づけられている。財務諸表は株式投資や銀行、取引先、税務署等企業の利害関係者が利用するのに欠かせないものである。 

7.2.1 財務諸表

(A) 貸借対照表(B/S)

 貸借対照表貸借対照表は企業の健康診断書ともいうべきものであり、それを読むためには、いくつかの言葉を理解しなければならないが、まず下にその例を示す。右に負債と資本が、左に資産が記載され、それらは等しい(資産=負債+資本)から英語ではバランスシートという。右の欄は資金の調達源泉(どこから資金を 得たか)を、左は資金の運用形態(資金をどのように使用したか)を示している。

(B) 損益計算書(P/L)

損益計算書 損益計算書は企業の成績書であり、貸借対照表のなかの 1項目である当期未処分利益を分解して示したものであり、Profit and Loss Statementの略号をとってPLという。損益計算書は企業本来の活動による営業損益と営業以外、主に財務活動による損益である営業外損益があり、これらにより経常利益が求められる。さらに特別損益があり、これを加えて税引前当期純利益が求められる。これから税金を引いて最終の当期純利益となる。

(C) キャッシュフロー(C/F)

2000/3期より報告が義務づけられたものであり、第三の務諸表といわれる。キャッシュフローとは「現金および現同等の流入と歳出」のことである。「どれだけ儲けるか」り「勘定あって銭足らず」という状況を作らないための管指標である。次のの三つに分けて計算する。
1.営業キャッシュフロー(営業活動による自前の資金獲得)
   経常利益、法人税等の支払い、役員賞与の支払い、 減価償却費、その他前期との比較で売上げ債権の増減、棚卸資産の増減、買入債務の増減割引手形の増減
2.投資キャッシュフロー(将来への投資状況)
 固定資産の増減、減価償却費、
3.財務キャッシュフロー(資金の調達と返済)
借入金・社債の増減、配当金の支払
1.と2.の合計をフリーキャッシュフローといい、これがプラスであれば経営状態は良好とみる。これがゼロまたはマイナスだと新たな資金調達を考えることになる。
3.は通常マイナスである。この三つの合計が当期のキャッシュフローとなる。 

しかし結果の数字だけで簡単に判断はできない。すくなくとも数期間の諸表を調べて経営が上昇傾向かどうかを判断することである。

7.2.2 経営分析

これら財務諸表によって企業の経営内容を分析することができる。しかし単なる数字だけからは十分な情報は得られるわけではない。経営分析そのものの限界があり次のような批判もされている。
1. 財務諸表は経営数字をすべて表示しているわけではない。(人材、経営者の資質、知名度等)
2. 財務諸表は粉飾されていることがある。(粉飾されると専門家でも容易に見破れない)
 3.財務諸表は発表時にはすでに古いデータになっている。(データはすべて過去のもの)
4.財務諸表は突発的な緊急事態には役に立たない。
こような欠点があり、どんなに数字をいじってみても正確な情報は見えてこないかもしれない。また数兆円売上げる大企業も数億円の小企業も同じ紙一枚の表なのである。だからこれらは基本的に丼勘定であり、最初から大略しか分からないようになっている。だからといって、これに変わるものがない以上、無視することもできない。「たかがBS、されどBS」ということであろうか。これらを認識して他社と比較してあるいは期間で比較して異常な数字には要注意の企業と判断することくらいである。経営分析という場合、いろいろな比率(百分率)を算出して判断するのであるが、わざわざそれを計算しなくても、BSやPLを眺めただけで、およそのことはすぐ分かる。まず売上の絶対額、資本金、資産合計などをみるだけで会社の規模が分かる。利益が赤か黒かは一目瞭然である。それでも比率を出して云々するのは、少しでも正確な判断をしたいということであろう。巧妙に粉飾された決算はプロでも見抜くことはできない。それはこれまでの実際の事例で経験済みである。だがそれはほんの一部の企業であり、多くはまじめで正直な財務報告をしていると考えることにしよう。次に経営分析の主な項目について調べてみる。 

(1) 収益性の分析

 経営分析のなかで最も重視される指標である。企業の収益性、どの程度儲かっているか、投入した資本とそれから得られた利益を調べる。最も一般的なのが、売上高利益率である。利益には営業利益、経常利益、総利益などがあり、これらを売上高で割り、売上高経常利益率などの名前が付く。先に示したPLのデータを用いると
 売上高経常利益率 =(経常利益/売上高)×100=(955,104/18,024,492)×100=5.3% となる。
この数字がいいのか悪いのか、このままでは判断ができない。業種によってまた規模によって異なるからであり、それらとの比較で見る必要があるが、製造業で6〜8%程度である。しかし他社との比較でなく客観的に見ることのできる指標が投下した資本に対しての収益性つまり、総資本利益率である。
これも前記のBSとPLから求めると 
 総資本経常利益率 =(経常利益/総資本)×100=(955,104/11,794,722)×100=8.1%  となる。
この指標の製造業平均は 5.3 %であり、中小企業は6〜7%、大企業で3〜5% である。この指標が大きいとしても、総資本の中には他人資本が入っている。株主側からすれば、自分の持ち分に対しての見返りが問題である。だから利益も税引き後の当期純利益を使用したものそれが自己資本利益率である。
自己資本利益率 =(当期純利益/自己資本)×100=(160,086/3,169,620)×100=5.05%
この指標の数字は中小企業で 7〜20 % が中クラスである。資本が大きくなるほど効率が落ちてくるので大企業は5〜17 % となる。しかしこの指標は収益力そのものより、企業の体質を調べる物差しともなる。
世の中の景気が絶好調というときは、過小資本が有利であり、不況の時は利子の低い他人資本が多い方が有利というようなことである。過小資本の善悪ではなく、経営が積極的か堅実かにかかわる問題である。
次に利益の額ではなく投下資本が有効に活用されているかを動的にみる指標が資本の回転率である。
 総資本回転率 =売上高/総資本=18,024,492/11,794,722=1.5
1年間で総資本の何倍を売り上げているかという資本の効率性を示すものである。この例では 1.5 倍ということであるが、通常は 1〜1.2 倍程度である。先の総資本経常利益率は売上高経常利益率にこの総資本回転率を掛けたものに等しい。率という文字が使われているが、なぜか回転という文字がつくと%表示ではなく 100 を掛けない単なる数字で表す。

(2) 生産性の分析

その他データ 収益性の基礎は生産性にありということで、生産要素の投入量と算出量の割合を調べるのであるが経営分析の中でも複雑で分かりづらい指標かもしれない。
      ○○○生産性=産出量/投入量
上の式の分子(産出量)には生産量、生産額、売上高、付加価値、等を、分母の(投入量)には労働、資本、土地、原料、燃料、機械設備、等をもちいる。使用するデータによって名称が異なり労働生産性や資本生産性などとなる。その他労働装備率、労働分配率などもある。これらの指標にはたいてい付加価値という言葉が出てくるが、これがまたくせ者である。付加価値とは何かと聞かれて明確に説明できる人、または聞いてすぐ理解できる人はいないと思われる程である。この指標を算出する多くの機関(日銀、経済産業省、日本生産性本部、その他等)によって付加価値の定義が微妙に異なり、統一された見解になっていないこともある。中小企業庁では付加価値を「生産高−外部購入価格」としていて簡単な方であるが、これでもまだ曖昧である。
しかし「ものつくり」という製造業をベースにするなら、付加価値=限界利益と考えてよいのでそれで先に進むことにする。この限界利益については、原価計算の章で詳述するが、簡単にいうと製品の売価から、変動費(製品を売るために比例してかかる費用であり、原料、副材料、運賃、梱包費など)を減額したものである。
さて、この生産性を分析する場合、肝心の項目が財務諸表には存在しない。実は他社の財務諸表は財務会計(Financial Account)という法で決められた一定のルールに基づくものであり、外部に公表するためのものである。生産性分析のためには企業が自社の業績向上を目的とした管理会計(Manegement Account)に基づいて制作した財務諸表に基づかなければならない。社内用であるから制作のルールはなく、きめ細かく、タイムリーに自由に作ることができる。外部に出すような丼勘定ではなく、部門単位、事業部単位、営業所単位、月単位などで制作できる。先に示した損益計算書は財務会計に基づくものだから、ここで不足しているデータを「その他データ」の表にまとめてみた。これらにより行う生産性の分析項目はたくさんあるが次にその主なものをあげる。ルールがないから指標の名称も人によりまちまちである。
労働生産性=付加価値(限界利益)/従業員数=9,724,836/850=11,441千円/人・年
通常労働生産性といえば、この一人当たりの付加価値つまり限界利益をさしていう。この場合の従業員数は役員及びパートは正規従業員の平均給与に換算して算出するので表中の数字も概略換算した。これも上は15,000から下は4,000千円/人・年程度ということである。
  資本生産性=限界利益/総資本=9,724,836/11,794,722=0.82 
これは総資本に対する限界利益の割合であり、もちろん大きい数字ほど生産性は高い。
  設備生産性(設備投資効率)=限界利益/(有形固定資産−建設仮勘定)=9,724,836/3,091,896=3.1
投下資本に対する産出量の指標が設備生産性であり、投資効率を知るものである。
  労働装備率=(有形固定資産−建設仮勘定)/従業員数=3,091,896/685=4,513千円/人
これは一人当たりの設備の保有額である。生産性を向上させるには自動化・省力化などの設備が必要になる。だがこれも業種により大きく変化し、リースの多用はこの指標に現れない。製造業平均では2,292千円。
  労働分配率 =(労務費/限界利益)×100=(4,243,392/9,724,836)×100=43.6 %
これは企業が生み出した限界利益のうち人件費が占める割合である。これも業種によってまちまちであるがおよそ目標は40%以下とされており、50以上は問題、30以下は優秀である。
  限界利益率=(限界利益額/売上額)×100=(9,724,836/18,024,492)×100=53.9% 
これはもっとも重要な指標であり、50%以上は必要であるとされている。実際は30〜70程度になっている。

(3)  安定性の分析

企業の財務の安全性を判断し、支払い能力を把握する分析である。収益が大きくても、黒字倒産ということもあり得る。それらのいくつかを紹介する。
  流動比率 =(流動資産/流動負債)×100=(8,185,655/4,853,532)×100=168.6%
これは企業の支払能力や安全性を判断する指標である。流動資産も流動負債もともに1年以内に現金化と支払い義務のあるものである。これが 100 % なら、資産も負債も同じということであるが、それでも危険であり、通常は150 % 程度が標準、理想的数字は200%以上とされている。故に2:1の原則とも言われる。
 当座比率 =(当座資産/流動負債)×100 = 6,520,700/4,853,532=134.3 %
当座とは「その場で」という意味であり、これはすぐに支払う能力のあるなし、換金性の高い資産がどれ程あるかを判断する指標の一つであり、流動比率より厳しい数値である。当座資産は流動資産から棚卸資産を引いたものであり、在庫の持ちすぎかどうかを判断出来る。1:1の比率といわれ故に100%以上が必要であり、80 % 以下は危険とされている。
  自己資本比率 =(自己資本/総資本)×100=(3,169,620/11,794,722)×100=26.9% 
 総資本の中に占める自己資本の割合である。自己資本はコスト不要の、返済義務のない資本である。この比率は、高ければ高いほど良く、40 % 以上が望まれている。しかしあまり高すぎても超安全主義で社会の変化について行けず、適応力に欠けるということになる。当然業種や規模によって異なり日本の中小企業の平均は 24 %、大企業で40 %である。ちなみに国内の銀行は4% 以上必要とされている。
  固定比率 =(固定資産/自己資本)×100 =(3,609,067/3,169,620)×100=114%
 固定資産に投資するのは、自己資本の範囲内で行うべきという思想からこの値は 100 % 以下とされている。これを超えることは借入金による投資になり、過剰な設備投資が倒産の原因になったりする。しかしこの比率は資本調達のポリシーによって左右され急成長する会社はこの比率が大きくなる

(4) 成長性の分析

 会社の成長とはその経営規模の拡大を意味し、成長性の大きい会社は規模も大きくなる。高成長が収益にマイナスになっていないか。それが安定性に欠けないかというようなことを分析する。
 売上高成長率  過去の伸び率、日本の平均との比較、同業他社との比較で見る。
 製造業平均では 2.4%、全国平均で 0.8 % 程度である。もちろん景気の動向に大きく左右される。
 経常利益成長率 これの理由は単純ではない。個々の場合の理由をはっきり把握する。売上だけが伸びても空回りである。いずれか片方だけの伸びは問題、両方同じように伸びるのが理想的である。
以上の二つとも理想は10 % である。
売上高と研究開発費の比率 研究開発費は会社成長の基礎条件の一つである。売上高の何%を研究費に投資するかを知ることで、その会社の将来への意志を読み取ることが出来る。現在好調に売れる商品があってもいずれ他の商品に取って代わられるのは世の常である。景気の変動に左右されることなく研究への投資は必要経費としてみなければならない。上場会社で売上の 1% 程度を投資しているのが全体の14 %、2% 程度が 18%、5%程 度が最も多い。会社の規模にあまり関係なく5% 程度が中庸をなしている。
そのほかの指標として、売上に占める新製品の割合従業員の平均年齢、さらには取締役の平均年齢などがある。もちろん若いに越したことはない。

7.2.3 債務超過

 債務超過とは貸借対照表上の負債が資産を上回った状態であり、個人なら自己破産である。これは破産原因となり破産法第 127 条の「その財産を以て債務を完済することが不能になる場合...」である。
こうなると資産を全部売却してカネに換えても債務の返済は不可能になる。即倒産とはならないが非常に危険な状態である。しかしこれは単なる帳簿上のことで、大きな含み資産があるとすれば、現金に換えることで危機は免れる。その逆もあり、簿外の債務があったり、資産価値が極端に下がっていて、実質的には債務超過ということもある。通常、債務超過を回避するために、第三者割当増資などが行われる。しかし、危ないと分かっている企業に人は寄りつかない。特殊な事情がなければ資金確保は実現できない。

7.2.4 粉飾粉食決算

 財務諸表は会社のカルテである。だから財務諸表が理解出来れば、株取引で有利だとか、様々な効用が宣伝されている。しかし財務諸表の多くは粉飾されているなどと言われたりする。
もし粉飾されているなら、それを真剣に解析してみたところで無駄な努力である。確かに粉飾決算が明るみに出て世間を騒がせた倒産事件は後を絶たない(エンロン、ワールドコム、カネボウなど)。
監査法人(資本金5億円以上の企業はすべて監査対象となる)が監査しても、不正経理は見抜けないようである。よく「粉飾決算により破綻した」という表現を見かけるが、粉飾したから破綻するのではなく、破綻が始まっているから粉飾するのであり、順調な時には粉飾をする必要がない。脱税のための逆粉飾は別であるが、これは発覚するとひどい代償を払うことになる。しかしながら粉飾が多いとはいっても、大多数はまじめな決算をしていると考えるしかないし、実際はそうであろう。重箱の隅をつつくようなことをすれば完全無欠な決算などというものは存在しないから粉飾が見つかるかも知れない。要は程度問題であり、決算書を作る人の姿勢の問題である。

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