第七章 目次 7.1 特許 7.2 財務諸表 7.3 直接原価計算 7.4 製図の基礎 7.5 接着の基礎
7.6 物理定数 コーヒータイム(8) 杉原千畝 執筆後記(第七章)
「それ儲かりまっか」と社長はいった。大企業の技術系役員が新製品を開発しその商品化を情熱を込めて社長に訴えたときの答えである。あまり上品な言い方ではないが、企業にとって利益を無視した商品はあり得ない。技術者はややもするとこのことを忘れ、商品の性能だけに惚れ込むことがある。儲かるかどうかの検討は商品開発に先立って行うべき事であり、赤字の商品を作るのは犯罪的でさえある。
業種によって原価計算の方法もまちまちであるが、原価計算の手法もまた綜合原価計算とか全部原価計算などがあるが、これらは法的に決められた財務諸表を作るためのものであり、こういう計算方式は経理屋に任せておけばよい。この計算方式では製品が売れなくても作れば作るほど利益が出るというようなおかしな結果になることがあり、「儲かりまっか」という質問の答えの根拠にすることはできない。
ここでは商品毎の利益計画に役立つ直接原価計算についてのみ紹介する。ちなみに全部原価計算はどんぶり勘定である。会社の規模にかかわらず、つまり、資本金が100億円でも100万円でも結果を紙一枚で表現する。全部というおかしな名がついているからすべていっしょくたである。結果を重視するから利益計画には全く役に立たない。全部原価計算は原価計算ではなく、その名称を「利益の結果報告書」とでも変更すべきである。現場での利益計算には直接原価計算(損益分岐点図表を含む)によらなければ決して答えることができないのである。
直接原価計算では費用すべてを変動費(製品を作る毎に比例して増加する費用)と固定費(毎月生産に関係なく発生する費用)に分類する。
変動費 (材料費,材料ロス,購入部品,能率給,燃料代,電気代,水道料,消耗品,運賃,能率給等)
固定費 {本社費、減価償却費、人件費、固定地代家賃・共益費、通信費、保険料、水道光熱費(基本料)、広告宣伝費、賃借料(リース料)、雑費、支払利息、特許料、販売管理費配賦他}
(A)社内に払う税金(本社費)
固定費のうち気になるのがこの税金である。会社がある程度大きくなり、事業部制を取っている場合、本社機構というのは利益を生まない部署である。故に各事業部が本社費の名目で一定の金額を負担することになる。小さな会社で一つの建物ですべてを行っているとしても製造部門は間接費として、管理部門すべてを養うことになり、この費目はないが、その分の人件費管理費等が固定費となる。
事業部が多くなると各事業部に配布する割合が問題となるが、人数や土地建物の面積、その他を基準に して配分を決めることになる。本社が金融関係で利益を得て自らの食い扶持を稼ぎ、本社費はいらない
というのは聞いたことがない。故に本社費を考慮せず利益が出るとぬか喜びしてはいけない。
(B)減価償却費
これもおかしな誤解を招く名称である。筆者は長い間これを「再取得のための内部留保」という意味だけと思っていた。実際は大きな固定資産を一度に経費にすることを回避するための手段でしかない。要するに大きな経費を法で決められた耐用年数で分割して経費とする。当然小さな経費で済むので利益の年変動を避けられるということである。しかし支払いは済んでいるから内部留保となり、貯蓄になる。償却が終わったからと言って同じような設備を手当てするかどうかは経営者の勝手である。本当の意味での減価償却をしているわけではないから、これも経費分割費とでもするのが妥当である。
これを経費に計上する方法として、定額法と定率法があり、どちらを選ぶかは会社の自由である。
開発費、研究開発費も大きな費用であれば繰延資産に計上し、5年以内の償却費とすることも可能であ る。
限界利益は売上額から変動費を引いたものである。限界利益を売上金額で除した値を限界利益率という。限界利益率は重要な指標である。製造業なら50%以上が理想的であるが、日本の製造業では20%以下が多いようである。これは製品一個についても総額でも成立する。経常利益は総限界利益から固定費を引いたものである。
ここで v:限界利益(円/個) u:単価(円/個) α:限界利益率(%)
k:固定費(円) w:変動費(円/個) x :数量(個)
p:経常利益(円) とすると
売上関係は次式で表すことができる。
y1:総売上額(円) {単価×数量} y1 =ux ・・・・・・・・・・・・(1)
y2:総費用(円) {変動費×数量+固定費} y2 =wx + k ・・・・・・・・・・(2)
y3:総限界利益(円){限界利益×数量} y3 =vx ・・・・・・・・・・・・(3)
y4 = k・・・・・・・・・・・・ (4)
これは単純な一次方程式であり、グラフにすれば何のことはない。これらの関係から損益分岐点図表を簡単に作ることができる。
先に示した数式を図にすると図 7.3 のようになる。要するに y=ax + b という一次方程式であり、これについては第四章の数学を参照してもらいたい。学校で習うことと違うところはy軸に4つの項目(y1,y2,y3,y4)が一緒に示されていることである。さらにx軸も数量と売上額の二つの項目が示されている。もっとも大きな違いは現実の数字には単位がついているということである。故に数学では
y=ax と y=b をひとつのグラフにすることに何の問題もない。しかし数字に単位が付き、名称がつくとその関係を認識しないと意味が分からなくなる。たとえば
図 7.3 においては売上高と費用が同じy軸に示されることになる。そして通常損益分岐点の説明をする場合、(1)式の売上高線(y=ux)と(2)式の総費用線(y
= ax + b)で行われる。
しかし(3)式の限界利益線(y=vx)だけあればすべて説明できるので、(1)(2)は不要になる。図7.3 でも分かるように経常利益を示す青の矢印と赤の矢印は同じであり、損益分岐点売上高を示す青の縦線も共通である。
(3)式はy=ax の形であり、固定費線は
y=b の形である。
yとxで説明していては先に進めないので、項目に適当な英文字をあてはめる。
U:売上高(単価×数量、万円/月) 、
V:限界利益(総額、万円)、
W:変動費(万円/月)
α:限界利益率(%)、
K:固定費(万円/月)、
P:経常利益(万円/月)
X:数量(個、本、枚など)
以上の項目から
V=α・U ・・・・・・・・・・・・(5)固定費は y=b の形であるが、y 軸はすでに V(限界利益)があてられている。だからといって V=K としては 限界利益=固定費 となってしまう。だからy軸には固定費も表す意味で2重の表示をすることになる。故に y=V=α × U 及び y=K である。つまりここでいうyは単に縦軸の数字を意味している事になり、y自体に単位はないのである。しかしいずれも単位は(千円)であることには違いない。ここが単なる数学と実用数学との違いである。この関係はx軸についても同じである。y
軸という概念から離れたとたんに、単位を無視することは絶対にできない。 これらを考慮して書いたのが 図 7.4である。
前述したように縦軸は限界利益と固定費である。横軸は売上高であるがこれは当然分解すれば単価×数量である。固定費は売上に関係しない一定額で横軸となる。図7.4では600万円を示している。
さてy=axに相当する(5)式が緑の斜線である。限界利益率αは売上高U にかかる係数であり、これが大きいほど傾斜が急になり、図7.4に示すように経常利益が大きくなる。この斜線と固定費線との交点(赤丸)におけるUの値が損益分岐点の売上高であり、図7.4では1200万円が示されている。図7.4における経常利益を示す矢印を大きくするには次の三つの方法しかない。
(1)固定費を下げる 人件費(リストラ)、経費節減、等 @
(2)売上を上げる 値下げ、宣伝増強等 (しかし経費増にもなる)A
(3)限界利益率を上げる 材料費を安く、ロスを少なくする、燃費を下げる等B
いずれにしても総合的な検討が必要である。
ただ一種類の製品しか作らないということはほとんどないであろう。多くは多品種を生産する。同じ工場で共通の設備であるいは設備が違っても人員は共通ということもある。その場合でも製品毎の限界利益率は計算できる。
この場合の損益分岐点はどうなるか。売上の総額というのは多くの品種の合計である。一つの品種に絞れば小さな売上になる。これを一つの図表にするには、品種毎の売上額と、限界利益を、つまり商品単価とその限界利益率を産出できればよい。たとえばAという商品は限界利益率が
60 %、限界利益 240 万円、売上 400 万円とする。
図7.5 に書き込むと赤の斜線のように途中でとまる。そしてBという商品は売上が 500 万円、限界利益率 45 %、原価利益 225 万円 である。
商品A:α:60 %、U:400 万円、V:240 万円
商品B;α:45 %、U:500 万円、V:225 万円
これを 図 7.5 に書き入れると、青い斜線になる。
しかしながらこういう書き方では何も解決しない。図 7.6 のように A の赤線の先端に B の青線を継ぎ足すのである。当然売上や限界利益は二つの商品の合計になる。商品がどれだけ多くてもこの方法で、売上全体を表すことができる。いずれかの製品に数値の変動があればそこだけ訂正すればよい。この方法で損益分岐点も経常利益も求めることができる。
「もうかりまっか」という質問の答えは 図 7.6 において追加された新製品の傾斜と長さによって決まる。従来製品の売上げ額が損益分岐点しかない場合、追加した新製品による利益増はそのまま経常利益になる。