ものづくり技術手帳

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第七章 ものづくり周辺

第七章 目次  7.1 特許   7.2 財務諸表   7.3 直接原価計算   7.4 製図の基礎  7.5 接着の基礎 
7.6 物理定数   コーヒータイム(8) 杉原千畝    執筆後記(第七章) 

7.5 接着の基礎

  古代においても物をくっつけるという必要性はあり、接着の歴史は古い。当時は天然の「アスファルト」や「うるし」そして「にかわ」や「でんぷん」である。アスファルト以外は水溶性であり、接着の理論など知らなくても、経験のみで利用できる接着剤である。しかし現在はその種類は非常に多く、ホームセンターに並ぶ接着剤を見ても選定にとまどうが、家庭用なら失敗しても問題は少ないであろう。だが仕事として「○○と○○を接着するのにどんな接着剤がいいか? 」というような質問を受けることがある。しかしこれではとても返事ができない。あまりにも漠然としているからであり、接着という言葉自体間口が広すぎるのである。被着材が明確でも、その他の要素によって答えはいくつにもなる。まず接着する材料の形状、必要な接着力、その耐久性、接着面積、数量、接着する環境、等々があり、それぞれの接着条件は異なってくる。ここでは接着の入門、その基礎の基礎について述べる。

7.5.1 接着の分類

接着剤の分類 接着剤には、種類や接着方法が多種多様なのでその分類法にも色々考えられる。その分類法として
  1. 接着剤の主成分による
  2. 接着法の形態による
  3. 硬化様式による
  4. 被着材による
  5.性能による
などであるが、まず主成分による分類は無機系と有機系に大別され、さらに有機系は天然と合成に分けられる。ケイ酸ソーダはダンボールやセラミックなどに使用されるが、耐熱性はあっても、接着力は弱く硬くてもろい。接着剤と表現するには気が引けるが、これらの性質は無機系接着剤に共通の性質である。 有機の天然物においてでんぷん系にはしょうふ、デキストリン、続(そく)飯(い)(ご飯を練った米のり)などがある。たんぱく系には膠(にかわ)(動物の蛋白質、ゼラチン)、カゼイン(牛乳由来のたんぱく質、溶剤系)、大豆たんぱくなどがある。
天然系の接着剤の歴史は古いが、その多くは合成系に取って代わられ、現在 使用量は極端に少なくなっている。なお、接着剤に関するJISも多くそれらを表 7.24 に示した。

接着剤のJIS

7.5.2 接着剤の硬化機構

硬化機構というと難しそうな言葉であるが、要するに液体の接着剤が固化して接着機能を発揮するメカニズムのことでありその種類もまた様々である。
1. 水分が蒸発して固まる
接着剤を溶媒で分類すれば、水溶性と溶剤性に大別することができる。水溶性は当然水分が蒸発して固 まるものである。セメントは純粋な化学反応(生石灰他の水和)である。天然系ではデンプン糊や膠など また合成系ではエマルジョン(高分子が水に分散)やラテックス(ゴム成分が水に分散)タイプはこの部類 に属する。いずれも界面活性剤が含まれているので耐水性は良くない。このほか合成系ではポリビニル アルコール(事務用糊)やポリビニルピロリドン(スティック糊)がある。
2. 溶剤が蒸発して固まる
代表的なのはゴム糊である。天然ゴムをガソリンに溶かしたものは昔から自転車のパンク修理に使われ た。現在はクロロプレンなど様々な合成ゴムがある。溶剤にプラスチックを溶かしてそのプラスチック を接着するのに用いられるものをドープセメントという。
3.冷却して固まる
ホットメルトタイプがこれに属し、ハンダやアスファルトと同じ原理である。加熱して溶融し粘度が低い 状態で塗布し冷却すると接着完了である。ダンボール製造に使われるコーンスターチ(デンプン系)は水分 の蒸発と加熱により高速の接着を実現している。耐熱性は良くないが、ホットメルトは多く製本に使用さ れている。溶かす前の形状はペレットやフィルムとして供給される。
(これらに属するものに イ、モノマーの重合 ロ、硬化剤で固まる ハ、加熱により重合する がある)
4. 低分子の物質が重合して固まる
これは純粋に化学反応である。瞬間接着剤(α-アクリル酸エステル)やエポキシ、フェノール、尿素、ウ レタンなどの各樹脂系であり、必ず硬化剤を必要とする。一液で固まるものは空気中の水分が硬化剤の役 目をし、または一液でも加熱のみで硬化するのもある。化学反応であるからそれぞれに樹脂の種類に応じ た耐水性や耐熱性がある。
5. 感圧型(粘着剤)
感圧接着剤というのが一般的である。粘着剤は粘度の非常に大きい液体であり、単体で使われることはな くフィルムやテープ、ラベルなどの加工品として供給される。接着の形態としては両面テープであるが、
粘着剤というだけに、クリープ現象は避けられない。

7.5.3 接着の理論

液体を固体にする機構は前述したが、ではこれがどうして接着するかはまた別の問題である。接着の理論は種々あるが、理論を知っても接着剤を使用するに際してはあまり役に立たないかも知れないが、おおよそは次のようである
1. 機械的結合
もっとも納得できる説明は機械的結合(アンカー効果、投錨効果などとも言われる)であろう。材料表面の凹凸に液状接着剤が入り込み、固まることによって接着が成立するというものである。木材や繊維、皮等の接着には合理的な説明である。このような接着は合板、パーチクルボード、集成材などのように材料破断が生ずるほど強力な接着となる。
2. 化学結合
つるつるの表面にも接着する場合、機械的結合理論では説明がつかない。それを説明するのが、化学的結合である。接着剤と被着材が化学結合(共有結合、水素結合、共重合、縮合反応、付加反応)をするという説である。イソシアネート、エポキシ、シランカップリング処理などがこの例とされる。接着剤自体も硬化剤を使用して化学反応することになり、最も強い接着力を実現する。
3.ファン・デル・ワールス力
物体と物体とがナノサイズ的に近づけば、つまり完全にすき間なく密着させただけで接着剤などなくても強力に接着する。つまり物体の表面は電気的に中性にみえても、局部的に分子の+、−の偏位があり、それが静電気的に引き合い、強力な磁石のように離れなくなる。しかし現実には全く不可能である。表面的にどんなに平滑に見えても実際の物体は顕微鏡的には大きな凸凹があり、密着したようでもすきまだらけでありとても静電気的引力が働く状況にはならない。このすきまを埋めるのが接着剤であり、接着剤と被着材が静電気的結合をするのであり、これが分子間力(ファンデルワールス力)といわれるものである。(5章1節、2.ナノテクノロジー、ヤモリの指 を参照)
このほかにも、水素結合説、吸着説、拡散説などあるが、省略する。
4. ぬれ
木材や石材に対して「ぬれ」を問題にすることはないが、プラスチックや金属の接着を云々するときに避けて通れないのが、この ぬれに関することである。物体の表面に水をかけると玉になって転げ落ちる状態は、接着にとって最悪の表面である。逆に表面に水の薄い膜ができる状態が良くぬれている状態である。接着にとって理想的な表面であり、ぬれが悪い時は表面処理を行う。ぬれの説明において、液滴の接触角がどうのという説明をよく見かけるが、その角度の大きさが問題ではない。要するに完全にぬれる状態でないと、接着に適さないのであるが、接着強度をそれほど問題にしなければ接触角など無視することもある。金属の接着に水溶性を使用することはまずないと思われるが、水に濡れなくても、溶剤になら良くぬれることもある。それでも「ぬれ」を問題にし、それを改善するために前処理(化学的処理)に相当な費用をかけてでも行うのは、接着に高性能を要求するときであり、それ以外はサンドペーパーで荒らす位が普通である。面と面の接着であるから、理想的な接着を実現するには被着材表面の化学的および物理的性状は無視することはできない。

7.5.4 接着剤の概要

接着剤の生産量 表7.25 に接着剤の用途別の使用量を示した。合板や建築などで木材用がほぼ半分を占め、他にダンボールや紙管などの紙類全体で 20 %でなる。これらは接着しやすいものであり接着剤の70%は木材や紙に使用されている。ついで 表 7.26 には接着剤の種類別の生産量を示した。
ユリア系、メラミン系、エマルジョンタイプやフェノール系などやはり木材に使用される接着剤が上位に並んでいる。一方、家庭用に販売されている接着剤の種類は 表 7.27に示した。前述のユリア系やフェノール系は記載されていない。それらは少量の硬化剤を配合しなければならず(配合量により硬化時間が変わる)、加熱加圧も必要であり、さらには保存期間が短い、そのための温度管理も必要など、まず家庭用には向かないからである。ホームセンターなどで多種多様な接着剤が販売されているが、選定に戸惑うであろう。接着剤の容器には、ごく小さな字であるが、必ず成分が表示されている。説明書には適用できる被着材の種類を並べてあるが、工業的にはたとえば木材にエポキシ樹脂を使用することは通常あり得ない。安価で使いやすい接着剤が他にあるからであり、実験や家庭用は別として、工業用なら前述の接着剤が用いられる。
接着剤選定早見表なるものがあり、被着材1と被着材2とに対して使用可能な接着剤を組み合わせた一覧表である。しかしこれはほとんど役に立たないと思われる。適用接着剤が多く、その内の一つを選定しても成功するとは思われない。たとえ家庭用であるとしても、条件が様々であり、それが明確でないとこれが良いなどと決定できないからである。特に工業用途なら被着材だけでなく、接着剤の作業性も選定に考慮すべき事柄となる。接着剤はホットメルト以外は液体で供給されるが、この場合その粘度も塗布作業や後の加熱工程において極めて重要である。工程に合うように粘度調整が必要である。大量に使用するなら、メーカーに依頼もできるが、少量では応じてくれないから、自前で行うことになる。最も重要な選定事項は接着強度であろう。 だが接着強度と一口にいうが、次に述べるように、引っ張りせん断強度でも、1MPaから20MPaまでの範囲があり、1MPaでも強度があると表現されるのである。
接着という言葉で、ひとくくりにされるその内容は極めて幅がひろく、接着とは実に曖昧なことばなのである。

7.5.5 接着の前後

1. 選定

被着材に対してどの接着剤を適用するかは重要であるが、常識的に決まっていることも多い。
事務用品にエポキシ系を考えることはなく、自転車のパンクの修理にはゴム系を使用する。しかし家庭 用や趣味ではなく工業用となると慎重に選定を考える必要がある。金属には何々系などという表現では 何も選定したことにはならない。接着剤の成分で何々系という言葉は幅が広く、エポキシ系といっても、 その中の種類はやたらに多い。エポキシの場合、主材はともかく硬化剤の種類だけでもアミン系、ポリ アミド系、酸無水物、ポリサルファイド系など数十種類もあり、それぞれに硬化条件から、物性まで様 々である。深入りすれば接着剤という枠からはみだし、複合素材や電気関係の分野に立ち入ることにな る。構造用とされる接着剤にもビニルフェノール系、ナイロンフェノール系、エポキシフェノール系、 ニトリルフェノール系、ポリイミド系他多くの接着剤が挙げられる。接着構造を必要とする新規の製品 を前にして接着剤を選定する場合、参考資料だけでは解決しない。種類は多いから絞り込んだ系統の中 から実験を重ねてさらに目的に合うものを選定することである。

2. 被着材の前処理

木材、コンクリート、繊維や紙類などを接着する場合、被着材の表面処理をすることはない。ゴミや油 で汚れているものは常識的に除去するであろう。金属やプラスチックの場合、通常行う前処理は脱脂や サンディング(サンドペーパーをかける)である。必要に応じ機械式も利用する。
プラスチックの中でポリエチレン、ポリプロピレン、シリコーン、フッ素樹脂は接着しにくいというよ り基本的に接着しないと考えたほうが良い。プライマーを塗布するとか、あるいは酸処理とかコロナ処 理とかの前処理である程度接着可能としているが、無理に接着を考えるより、他の固定方法を工夫すべ きである。鉄や銅ならサンディングと脱脂で十分であり、アルミの場合は必要なら温度の高い強力な酸 性液に浸し酸化皮膜を作るエッチングという方法もある。

3. 被着材の塗布方法

手作業を行うための道具はヘラ、やローラー、ハケなど様々であり、これも常識的に選定できる。
機械式ならロールスプレッダー(片面用、両面用)やフローコーターやスプレーガン(ゴム系に適用)など がある。いずれもそれぞれの機械に適して粘度調整が必要である。また機械を使用した場合の廃液の処 理には水系、溶剤系にかかわらず十分な対策が必要である。

4. 養生

塗布後の製品は直ぐに貼り合わせるかあるいは、しばらく放置する(オープンタイム)か状況によって 異なる。また貼り合わせてからプレスするまでの時間(クローズドタイム)も必要になることがある。
ゴム系は溶剤蒸発のためにオープンタイムが必須であり、ホットプレスを用いる場合はクローズドタイ ムを必要とする場合が多い。

5. 硬化工程

ゴム系なら圧締して接着完了である。硬化剤を使用する接着剤で常温でプレス加工する場合、1昼夜置 くこともありこのとき工場内の温度には注意が必要である。夏場は問題がなかったのに、冬の季節に なるとトラブルが起こる。ホットプレスなら季節に関係ないという訳ではない。露の季節になると必 ず問題発生ということもある。湿度が高くなると比例して被着材も吸湿し、加熱されるとそれが高圧 蒸気となってトラブルの原因となる。安定して良品を作るには環境管理も重要だということである。

6. 接着の破壊状況

接着剤の性能を知るためには接着面を破壊してみないと分からない。このとき破壊の状況は
1.材料破壊(被着材が破壊する) 2. 界面剥離(被着材と接着剤の界面で剥離) 3. 凝集破壊(接着剤 自身が破壊) の三形態があり、これらの組み合わせもある。
金属と金属の場合は当然ながら材料破壊が生じることはない。金属(Fe,Al,Cu等)より強い有機物はな いからである。鉄と鉄を結合するには溶接という手段があり、特別な場合以外はあまり接着に期待す る必要もないかもしれない。アルミについてはアルミハニカムとアルミ板のように接着が必須の場合 はこれまで十分な研究がなされている。

7.5.6 接着剤の強度試験法

接着剤の試験方 接着強度は当然、被着材により大きく異なり、また被着材の形態により、その試験法も変わる。それが表7.28 に示した組み合わせである。(JISK-6848)
一、引張試験
複合床材や二次加工合板などに用いられる単純に面の引 張強度を測定するものであり、図7.39の一、のような 試験片となる(JIS K-6849)。
二、引張せん断試験
最も一般的に行われる試験であり、接合面に平行に力を 加えるものであり図7.39の二、のように行う。これら は主に金属、プラスチック、木材などに使用される (JIS K-6850)。これとは加える力が逆になる圧縮せん断試験 もありこれは主に木材やコンクリートなどに用いられる (JIS K-6852)。
三、剥離試験(JIS K-6854)
フィルムやゴム、布類などに用いるものであり、図7.39 の三、四、五、(180°、T型、90°)がある。
その他に割裂接着強さ(JIS K-6853)、衝撃接着強さ(JIS K-6855)、曲げ接着強さ(JIS K-6856)、クリープ破壊(JIS K-6859)がある。
これらの試験片はすべて実験室で作られるものであり、工場で連続して作られる製品や工事現場で作られる製品とは必ずしも製作条件が一致しない。現実の製品から
サンプリングして接着強度を測定できるというケースは極めて希である。故に実験室での結果と現実とは異ならないような試験片の製作条件も検討に値する。接着剤メーカーのデータは理想的な製作条件での結果である。それらを参考にする場合はその処理条件、被着材、硬化温度と時間、表面処理など、詳細に検討することである。

接着剤の強度試験方

7.5.7 接着剤と環境

接着した製品が接着後どのような環境に置かれるのかが重要である。接着時の環境とその製品を使用する環境は大いに異なる場合がある。その環境においての強度変化を知る必要があり、通常は温度や水分が重要な要素となる。

1.接着強度と温度

接着剤の耐熱強度 一般に接着剤は温度の上昇と共に強度が低下していく。図7.40には金属を被着材とした幾つかの例を示した。エポキシ樹脂は常温での引張りせん断強度は強いが、温度上昇と共に急激に低下して行くものの一つであり、図中の青線で示した3本の曲線はエポキシの種類による差である。
ポリイミド系は耐熱性の接着剤として知られているが、硬化させるのに高温高圧長時間を要し、航空機関係など特殊な用途以外には使用されることはない。
弾性接着剤であるシリコーン系は引張せん断強度だけでなく、剥離強度も強く、温度上昇も100°程度までならあまり変化はない。しかし高性能で衝撃や熱、水に強いというカタログ
を鵜呑みにしてはいけない。引張せん断強度は常温でも低く、エポキシ系が100℃で低下した場合よりもはるかに低い。剥離強度は強いが引張せん断強度の絶対値が目的に合うかどうかを知る必要がある。超強力といわれる両面接着テープにしても、引張せん断強度で比較すると、接着剤としては最下位に属する。

2. 接着強度と水分

全接着剤の半分は合板や建築などの木材関係に使われ、それらの使用環境はまた水分と大いに関係がある。
接着剤の耐久性もまた水分に大きく影響される。従ってJISでは、水分の影響による処理条件を表7.29 や表7.30に示したように細かく規定している。接着剤の性能は水との戦いでもあり、「なんでもいいから接着すればいい」というのは家庭用や趣味ならともかく、そういう表現は技術的でない。そして接着剤の性能表現の多くは定性的である。「耐水性がある」といってもそこに具体的数字が表れること耐水試験の処理条件は希である。
また数字があったとしても、接着条件や環境が様々であるため目的とする条件に合わなければ意味がないことでもある。大まかに言えることは、硬化工程に高温と高圧と時間の要する接着剤は全体に高性能である。時間が短く熱も圧力も不要で手軽に接着が完了するものは大抵それに見合った性能しかないということである。しかし用途によってはそれで十分過ぎる場合もあり、接着性能がどの程度でよいかはケースバイケースである。

7.5.8 接着剤の構成成分

接着剤には主成分以外に様々な添加物がある。主成分だけが接着の性能を決める訳ではない。
1.主成分
どういう接着性能を要求するかを決めるのに主役を果たす成分である。その主なものは表7.23や表7.26に記載しと通りである。
2.溶剤
溶液型接着剤における水や有機溶剤である。水が溶剤の場合も若干アルコール類が含まれることがある。有機溶剤としてはメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)などのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ヘキサン、ヘ
プタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素やトルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類が使われる。
3.粘着付与剤
溶剤が蒸発したあとの硬化前の接着剤に粘着性がないとき、それに必要な粘着性を付与するために添加する。接着性を阻害せずかつ主成分と相溶性のある物質を選定する。被着材を仮圧締する場合、位置ずれを防止する。接着工程により必要不可欠の場合がある。
4. 可塑剤
ビニル系樹脂が主成分の接着剤に添加される。文字通り接着剤に柔軟性を与えるものである。
5.硬化剤
主材と反応して硬化を調節し、硬化物の成分になるものもある。二液を等量混合するエポキシ系接着剤は硬化剤が6割でもあまり性能は変わらないから、どっちが主材かわからない。しかしユリア系には塩化アンモニアをごく少量添加するだけでよく、硬化促進のみの作用である。一液性の常温硬化性の場合は空気中の水分や被着材の水分が硬化剤となる。
6.希釈剤
液状接着剤の粘度を低下させるために添加する。機械による塗布作業ではメーカーから供給された状態では必ずしも適性ではない。大量に使用するならメーカーでの粘度調節も可能であるが、少量なら自前でやるしかない。接着の条件によっては、粘度だけでなく、オープンタイムの調節や前述の粘着付与剤としての効果も期待できる場合がある。
7.充填材
常識的には増量剤的(コストダウン)要素が多い。しかしこれも粘度調節や多孔質材へのしみ込み防止が主目的となる。なかにはこれにより耐久性や接着力の増強となる場合もある。
さらにはチクソトロピー性(5章17節参照)を付与するために必須となる場合がある。単に常温での効果だけでなくハニカムのサンドイッチ構造材の接着において加熱硬化する場合、接着剤は硬化する前に温度により急激に粘度が低下し上面の接着剤が下面に垂れ下がる(ハニカムについては8章を参照)。これを防ぐためにチクソトロピー性は必須となる。炭酸カルシウムやシリカ(二酸化ケイ素)などの無機質の微粉末を添加して攪拌するのであるが、通常の攪拌ではあまり効果はない。超微粉末をローラーで練り込む必要がある。
8. 顔料
被着材の色と同じにするためもあるが、大抵は二液混合の場合に混合の度合いを確認するために主材と硬化剤の色を変える。ごく少量だから顔料を添加したために接着力が低下することはない。
9.その他
接着剤に難燃性を付与するなら難燃剤を添加することも可能である。攪拌時に泡が問題になるなら消泡剤(シリコンオイル)を添加する。天然系の澱粉には防腐剤が添加されている。ゴム系の接着剤には老化防止剤が添加される。さらにホットメルト接着剤には酸化防止剤が添加される。

  接着は総合技術

 接着という言葉では表現しきれないが、しかしそれでも接着という以外に言葉が見つからい。
接着技術で新しい技術が完成するとすればその周辺の技術も含む綜合技術として完成される。
そしてその技術は当然ながら門外不出の企業秘密となる。下の写真はアクリルの一枚板であり、
日プラ株式会社が製造したものである。大きさは脚注のとおり、大きすぎて運搬不能、現場で製作することになる。原板サイズは8.5m×3.5m×40mmで、これを工場で15枚積層接着して600mm とする。原板には凹凸があり、さらに曇っている。原料はアクリル樹脂だから接着剤もアクリル樹脂の「シラップ」を使う。数ミリの間隔をとって充填接着すると、接着剤とアクリル板とは一体となり、透明になり接着剤の強度も原板と同じになる。しかしわずかな傷も泡も変形もさせずに行わなければならない。さらに透明にするには積層した板の表面だけを自社開発の特殊な機械装置で磨きをかける。そうしてできた600mm厚さの板を現地の水族館に運び、縦にして7枚を接着接続する。このときも継ぎ目が分からないように接着することになる。ミスすれば最初からやりなおしであり、修正はきかない一発勝負である。これだけ大きくなるとその強度が問題である。プラスチックは鉄などとは比較にならない位剛性が小さい。この厚さ600 mm を鉄材に置き換えるとすれば、約140mm になる。鉄なら溶接も可能であるが、しかし140mm にもなれば、透明は無関係だから型鋼ということになるであろうが、それを剛性の低いプラスチックに置き換えるという発想がすごい。
また建築構造だからとして燃えない材料にこだわれば、無機のガラスを考えても実現は不可能であろう。水槽の窓だから燃えるかどうかなど関係ない筈であるが、しかし実際にある程度の厚さがあれば延焼はしづらいという実験もあり、実際に外国の水族館の火災でそれが実証されている。
これは大型の集成材(木材)が鉄より火災に抵抗力があるのに似ている。
接着のことを接着剤メーカーに問うても月並みの答えしか得られない。文献をあさっても基礎的なことしか分からない。「とにかく接着していればいい」程度ならともかく、接着が商品の一部を構成するのであれば、基礎を学んだあとは自ら技術を習得する覚悟が必要である。
接着は接着技術だけでなくその周辺の技術も含めた綜合技術である。

美ら海水族館

沖縄の「美ら海(ちゅらうみ)水族館」の巨大水槽「黒潮の海」の窓にとり付けられたアクリル板
         大きさ:幅22.5m×高さ8.2m×厚さ600 mm 日プラ株式会社 ホームページより転載。                                 http://www.nippura.cop/html/news/news_2002_01.html
                 参考: http://www.jmf.or.jp/monodzukuri/world/01.html

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