第五章 目次 5.1 長さ 5.2 質量 5.3 時間 5.4 面積 5.5 体積 5.6 速度 5.7 電磁波
5.8 エネルギー 5.9 温度 5.10 熱伝導率 5.11 音圧 5.12 圧力 5.13 電気抵抗率 5.14 密度
5.15 濃度(%) 5.16 濃度(pH) 5.17 粘度 5.18 ヤング率 5.19 粒度 5.20 価格
コーヒータイム(5)擬態 第五章 執筆後記
質量は長さや時間と共に計量の基本単位である。では質量とは何か? この答えは簡単ではない。
「長さとは何か?」という質問はあまり聞かないが、「時間とは何か?」という問の答えはたくさんある。しかしそれによって疑問が解決するわけでない。質量についても同じであり、解答は得られない。
質量に関する問は「物質とは何か」とほぼ同義語である。ゆえに物質の正体を知るためには、物質を小さく分解することである。物質をだんだんと細分していけば分子になり、原子になり、電子や陽子になり、さらに様々な素粒子にまで分解される。クォークとかヒッグス粒子とかになるとだんだん妖しくなるが、空間や時間も含め質量を相対論的に説明されても尚分からなくなる。4次元時空などは別世界の話しであり、「ものつくり」には無縁のことである。だが質量の精密な測定は可能であり、太古の昔から天秤を利用している。ほかの物理量には種々の測定法があるけれど質量だけは、天秤以外に測定の方法はない。
図表Aでは質量を 10−30〜1051 kg としているが、ピンキリはこれを越える。電子の質量が最小ではなく素粒子の一つであるニュートリノにも質量があるのかないのか定かでなかった。しかし最近それにも質量があるらしきことが分かったようであるが、その数値は不明である。宇宙の物質は現在知られている原子や分子や素粒子で構成されており、それ以外にはないはずであり、それの総量が宇宙の物質の総量とされる。
しかしまだ知られていない素粒子からなるであろう暗黒物質(ダークマター)が、大量に存在するともいわれる。要するに最小も最大も質量に関しては全く不明なのである。
これについてはすでに第二章4節(原子の世界)で解説した。原子核を中心としてその周りを電子が回るという模型の図が示される。原子核の大きさは約10−15 m であり、電子軌道は 1×10−10 m である。
原子の大きさは電子の回転軌道とするのであるから、仮に原子核の大きさをパチンコの玉の大きさ(約 1 cm )
とする原子の大きさは直径 1000 m にもなる。鉛などの重い原子にしても似たようなものであり、原子そのものはスカスカの構造なのである。
天秤は正直であり正確である。質量を測るには天秤しかなく最近では0.1μg(10−10 kg)まで測定できるが、それなりの技術は必要である。また計る物の材質が何であろうとかまわない。故に古来より天秤は善悪をはかる神の道具としてさえ使用された。古代エジプトの『死者の書』の「最後の審判」では、生前の悪事が天秤で裁かれる。天秤の一方には正義と真理である女神の羽がおかれ、もう一方には死者の心臓を置く。
悪事がなければ心臓は軽く羽と同じになりこの場合は永遠の魂を得られ、悪事があれば羽より重くなり獣に食べられる、というものである。重さはない筈の抽象的なものさえ計れるとするほど、天秤の正確さが信用されたと言うことである。
天秤が利用できるということは、重力が働いているからであり、重力場がなければどうにもならない。万有引力の法則が発見されるはるか以前から、人類は経験的に重力を利用してきたのである。
図表Aには主に天然の物質を並べてみたが、無数の物質が存在する割には図表Aはスカスカである。
逆にあれもこれも記載しては図が真っ黒になる。天然であれ人工であれ、ひっくるめて地球の質量に含まれる。で地球の質量はいくらということであるが、これを測定する秤などあるはずもない。秤がないし、質量は秤でしか量れないと前述したが、秤にも測定できる限界があるから、秤に掛けられない大きい物体は密度と大きさから概略を求めるしかない。地球の場合も例外ではない。ではその密度はどうやって求めるか。これに挑戦したのがキャベンディッシュ(1731〜1810)である。彼がこの測定をはじめたときすでに万有引力の法則が発見されてから100年が経過していた。この法則は次式で表される。

F:引力(N) m:物体 1 の質量(kg) M:物体 2 の質量(kg)
r:物体間の距離(m) G:万有引力定数(N・m2/kg2)
この式と 重力加速度の式 F=mg から 両式を等しいと置くと m が消えて次の式が得られる。
M=gr2/G
地球の体積Vは V= 4πr3/3 だから 地球の密度 d は
となる。
ここでg(重力加速度)とr(地球の半径)は判明しているから G を求めることで、地球の密度dも求めることが出来る。
さて最初の式(A)に戻って、これからGを求めるのであるが、キャベンディッシュは右図のようなサイズの鉛の玉を利用した。小球が大球に引き寄せられる力を測定することでGを求める。万有引力は極めて小さな力である。いい加減な装置ではとても検出できない。この玉を銅線でつり下げ小球が大球に引き寄せられる時のねじれ角を測定する。温度や振動などのわずかな外乱による影響を極力除外する工夫がなされている。この微少な力を測定できる「ねじれ秤」は
1785 年にクーロンが発明し、彼はこれによりクーロンの法則を発見している(3章7.1参照)。電気量クーロンとは比べものにならないくらい万有引力は小さいが、それで
も地球や宇宙の規模になると膨大な力となる。地球の密度を求めるのが目的で始めた実験は、つまりはGを求める結果にもなった。 地球の密度は現在
5.5 g/cm3 、
地球の質量は 5.974×1024 kg 、
G は 6.67×10−11 N・m2/kg2 である。
太陽の質量も万有引力の法則と地球の運動から求めることができる。地球が太陽の周りを回るときの遠心力fは
f=mv2 /r ・・・・・・・・・・・・・(B)
である。(3章4.11参照)一方 地球が太陽に引かれる力は 万有引力の法則から
F=GmM / r2 ・・・・・・・・・・・・・(C)
ここでf=F として(B)と(C)を纏(まと)めると M=rv2/G となる。さらに地球の公転周期Tは
T=2πr/ v であるから、v を置き換えると
M=4π2・r3 /GT2・・・・・・・・・・・ (D)
となる。r:地球と太陽間の距離(1.496×1011m)、G:前出
T:地球の公転周期(1 年間の秒数)(365.24×24×60×60s)
(D)式では距離と周期と万有引力定数だけになって地球の質量や速度は消えている。
これより 太陽の質量 M は 2×1030 kg となり地球の質量の約 33 万倍もある。
